3.5.幼竜
閑話①の続きです。
帝が屋上からいなくなったその数秒後。
「ぷいにゃああああぁぁぁぁあああああああああ――――!!」
フワフワもこもこした白い生物が、号泣しながら降って来た。まるで矢の如く屋上の、それもつい先程帝が目を押さえて立っていた場所に向かって襲来する。
フワもこが屋上のアスファルトに到達までと十メートル、五メートル、三メートル。
そして、残り一メートルほどに到達した瞬間。
その生き物が通過したばかりの宙に――屋上と平行に、蒼く輝く四角い光の扉が出来上がった。
扉から水飛沫が舞う。勿論、本物では無い。
色鮮やかな蒼銀の輝きを放つプリズムだ。
その中心から、すらりと白い腕が現れる。
「ぷにゅ!?」と、腕の先に付属する手に掴まれる白い生き物。手は再び扉の中へと引っ込む。それとほぼ同時に二割のくたびれた様子と、八割の安堵した様子の混ざった声が響いた。
「そうですよ~。最初から転移魔法を使ってれば簡単だったんじゃないですか~」
手が伸びた方とは反対の面からまた銀蒼のプリズムが放たれる。宙を舞ったそれ等は雨のように屋上へと降り注ぎ、光る扉がまるで硝子のように割れれば、ペタリと。
――真珠のように白い少女の裸足の裏が、比較的ゆっくりとしたペースでアスファルトに触れた。
「大丈夫ですかヒヨちゃん?」
「ぷぃ~」
ヒヨと呼ばれた生き物は、短い手で大きな頭の上を指す。確認した少女は、ほんの僅かに目を見開いた。
「まあ血! どうしたんですか? ……飛行機にぶつかった? あらあら、やっぱりまだ赤ちゃんの竜は体が丈夫じゃ無いんですねぇ」
少女はヒヨと名付けている白い生き物改め、幼竜の患部に人差し指を当てる。すると、人差し指から淡い光が形成され、患部へと吸収された。幼竜が気持ちよさそうに鳴けば、もうそこに傷跡は無い。
しかし、少女は眉を顰めた。
「ヒヨちゃん。貴方、いつの間に資格を授与したんですか?」
少女の問いかけに、幼竜は「ぷにゅ?」と首を傾げる。だが、すぐ何かを確かめるように自分の腹を両手で摩り、
「にゅぅ――――!! !!」
白い毛に覆われた顔を真っ青に変えて、絶叫を上げた。