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37.逢着

三人称→帝視点です。


「どういう事か、申し開きをしてみろ。フェヴローニャ・ラススヴィエート 」


 異空間の外にある新聞社のヘリポートで、フェヴローニャは糾弾されていた。

 彼女を糾弾すべく囲むのは、五柱の神々だ。どの神の目も、怒りの色で煮え滾っている。だが、フェヴローニャは面倒臭いと言わんばかりに欠伸をするだけだ。


「何って、見たまんまでしょう? 何か問題ある?」

「問題だらけだ!! 何故よりにもよって邪神に手を出した。大神が、アレとは不干渉でいるよう定めた理由を知らないのか」

「また世界が崩壊したらどうするつもりだ」


 フェヴローニャは、内心で「揃いも揃って腰抜け共が」と毒づく。


「分かっているわよ。どれだけ素晴らしい功績を残し神話で語られる大神様であっても、アレや私のような規格外の存在――次世代神には敵わない。刺激だけして恨みを買う」


 けれども――。


「その事実を認めたくないからでしょう?」


 ニタリ。と、フェヴローニャの顔に狂気の混じった不敵な笑みが浮かべられる。そんな彼女の態度と言い分に、神々は憤慨した。


「それが、遺言で相違無いな、フェヴローニャ・ラススヴィエート」

「あら、貴方達と私では、結果は目に見えているのではなくて? どうせ短い老い先だからって、あまり死に急ぐものでは無いと思うけどぉ?」


 噴火前の火山のように。抑えて抑えて、それでも地鳴りが聞こえてきそうな声音の彼等を、フェヴローニャはクスクスと笑う。


「我等が何も考えず貴様の前に立っているとでも?」


 刹那、フェブローニャの周囲を細い紐が囲んだ。空からも、足元からも。白銀に輝く紐は、前後左右余すところ無く音速で檻を作り出し、フェヴローニャの手足と首を拘束する。


「へぇ……これ、下手に手足動かしたら私の首が締まる仕組みなんだ」


 フェヴローニャは、非常に興味深いという瞳で見える範囲の紐を見つめた。この魔術が何なのか、分かっているにも関わらず。

 『グレイプニル』――北欧神話に登場する巨大な狼の怪物、フェンリルを捕縛するためにドワーフ達が編み出した絶対的強度を誇る魔術の紐。しかし、神話と違いその魔術の発動方法は、現在ではドワーフ種の一部しか知らない秘術と言い伝えられている。

 それを、何故彼等が使えるのか……?

 考えるまでも無く結論が出て、フェヴローニャは噴き出した。


「ぶっ、あはははは!! ひー! 神が泥臭い死体の成り上がりに頭を下げただなんてっ、受けるんですけどー!! あっ、やばい、笑ったら首が――あはははは!!」


 拳を握り、奥歯を噛み締めた彼等は片手をフェヴローニャへと向ける。


「その耳障りな声を放つ喉を、まずは潰してくれる!!」


 手の平から広がった魔法陣は、今のフェヴローニャを殺すには十分すぎる殺傷力の魔術を発動させる。しかし、フェヴローニャの表情は今もなお崩れない。それどころか、彼等へ向ける笑みに哀れみすら含むようになっていた。


「まあまあ。アンタ達も、もっと行動なさいな」


 無数の刃が、グレイプニルなど最早お構い無しに全身をハチの巣にする。

 しかし、全身をハチの巣にされたのは、フェヴローニャでは無く神々だった。


「世界を元通りにすれば、もう邪神に怯える必要も無くなるわよ? ……ああ、もう聞こえてないわね」


 フェヴローニャの視線が、足元へ行く。

 そこに有るのは、巨大な魔法陣と、血と、神々の亡骸。

 神々を襲撃したのは、フェヴローニャでは無い。それどころか、フェヴローニャは攻撃魔術の準備すら全くしていなかったのだ。彼女が行ったのは、結界の準備と、万が一その発動が遅れた時のための身体強化である。

 だって、この襲撃が来る事を知っていたから――。否むしろ、望んでいたからだ。


「んっふふ~。やっとこっちが欲しい火力分の暴走してくれたわねぇ。土筆寺帝が使えない事なんてこっちも分かり切ってるっての。私の狙いはアンタが暴走してくれるコ・ト♡ 日向環菜を一応殺さないでおいて正解だったわ~」


 魔法陣。正確にはその奥に広がる空間に向けて、フェヴローニャは堂々と勝利の笑みを向ける。


「さーて、秒針が出来上がるまで最低一時間ってとこかしら。五柱も殺したら、流石に他の神々が黙ってないわよねぇ」


 ふむ。と、口元に指をあてて考える素振りをしたフェヴローニャ。だが、すぐ考える事には飽きたらしかった。


「殺られる前に、殺ってくるか。ウォーミングアップに丁度良さそうだし」


 彼女の爪先から、飴玉でも出てきそうな可愛らしい音が鳴る。しかしそれは、彼女がヘリポートから雲よりも遥か上。正確には、雲を境に編み込まれた魔法陣で繋がる神々の異次元へ飛び立つ音だ。もっと言うと、神話で語られる事は決して無い――あまりにも卑劣で残虐で、一方的な蹂躙の始まる相図だった。

 

 ***


 死んだー! 間違いなく死んだー! めっちゃ痛かったんだけど! 焼ける痛みとかそんなレベルじゃ無かったよ何だアレ表現できるかあんなもん! とにかくとにかく痛かったんですけど!! ……って、あれ?


「ここ、何処? っていうか感覚も意識もあるし。傷口と血、何処行った? ……ん、んん? 死んだと思ったの夢だった?」


 ハッ! まさか天国か地獄の手前か。

 私は辺りを再度見回した。

 橙色が空一面を覆い尽くし、足元は……水、っぽいな。

 …………あ、この景色、テレビとか本で見た事が有る。空の色、雲の色、天空の景色がそのまま水鏡に映ってるどっかの湖。


「うぅ……ひっぐ、うぇええ」


 唐突に耳が拾った泣き声に、背後を振り返る。そこには、橙色の髪を二つに結っている小学生くらいの女の子が、両手で顔を隠すようにして立ち尽くしていた。


 橙色の髪って、サキと一緒だな。でも、その子の手足や服装を見たら、明らかにサキとは違う生活をしてる事が分かる。けっこう長い事使ってるっていうか、食べ物零した汚れなんかが目立つボロくて安い服。青痣や、煙草を押し付けられた痕のある手足。

 誰がどう見ても……ヤバい事されてんじゃん、あの子……。


 ただ見ている事なんか出来なかった。私は、血相を変えてその子の元に掛け寄ろうとし、でも足を踏み出す寸前に気が付く。

 救急セットなんか持って無くて、こういう時の適切な処置方法も分からない私に、何ができるのかと。


 すると、その子が手を離し、顔を上げて私の方を見た。


 え……っ、うそ。小さい頃のサキとそっくり過ぎじゃない?


 ドクン。ドクン。と、鼓動がやけに大きく鳴る。

 私の記憶では、サキがあんなかっこうしてた事なんて無かった。手足にあんな怪我も無い。いつも女の子らしい可愛いワンピース姿で、手足はビスクドールみたいに真っ白だ。

 妹も居なかったはず。てゆうか居たとしても、サキの家はあんな可哀想なかっこうさせて、青痣と根性焼き放置する家庭じゃ無い!


「ねえキミ――」

銀杏(いちょう)お兄さん!」


 声をかけたけれど、私の声はサキのそっくりさんには全く届いていないようだった。しかも、驚くべき事に、その子は私の胴体をスゥっと通過して行った。

 一瞬、『幽霊!?』なんて馬鹿な事を考えたけれど、そう思っても仕方ないよね? ね!?


「銀杏お兄さん!」


 と、そこでまた新しい誰かが出て来た。

 薄紫色の髪で年は私と同じか少し上か……あれ? なんか、すっごく見覚えのある男だ。

 誰だっけ? と首を傾げていたら、その男はサキと目線を合わせるようにしゃがみこんで、彼女の手の傷を苦い表情で見つめる。


「千寿。……この傷は?」


 一方で、私は思わず息を呑んだ。私の耳がおかしくなった訳でも、まして頭がおかしくなった訳でも無い。今、確かにあの男は、あの子の事を千寿って言った。そっくりさんじゃ無く、本物?

 突然始まった走馬灯のような劇ついていくのがやっとな私は、唖然と二人のやりとりを眺めるしかない。


「千寿、キミは今住んでる家から出た方がいい。あの家で生きられる訳がありません」

「だ、ダメ! そんな事したら、お父さんが一人になっちゃう。お父さん、優しい時の方が多いんの。だから、だから、銀杏お兄さんもヒミツにしていて!」


 縋るように男の服の袖を小さな両手で掴むサキの声は必死なものだった 。


「でも――」

「はなれたくないの。たった一人の家族だから」

「……次に痣を見つけたら、もう黙っていませんからね?」

「ありがとう。お兄さん」


 ふわりと、空気の中へ解けるように二人とも消える。驚いた私は目を擦って、そこをもう一度確認した。やっぱり、そこには誰も居ない。


「今の、何だったの?」

「記憶みたいなものです。時々ああいうのが見えるんですよ。ま、ほとんど俺が捏造してますけど」

「それ記憶って言わな――」


 そこまで言いかけて、私はギョッとした。

 いきなりの第三者の声だ。

 しかもそれは、とても近くから聞こえたから。


変な所で切ってしまい申し訳ございません。

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