32.邪神
「行こう!」
「はい! って、ん? そういえば私もっと重要な事のために学校に来たはずでしたが、どうして帝様に着いて行ってるんでしょう?」
疑問符を浮かべる真っ黒鳥の言葉は聞き流し、隣の1―Eとか、一階下のFクラスの前を通り、音源の第二グラウンドへ向かう。
「そういえば、なんで皆教室に居るんだろ? 臨時ミサから自力で戻ったのか、テレポートてきた力で移動させられたのかな?」
うわっ! また轟音。地面が酷く揺れて走り辛い。学校は当然丈夫だけど、これだけ揺れてよく学校以外の建物は倒壊しないな。……見えない所のはしてるのかな?
「それは、彼等が今寝てる場所が、本来居るべき場所だったからでしょう」
「本来?」
「臨時ミサでしたか? それは恐らく『黙示録の原稿』には無かったはずの事柄です」
うーん。なんか中二っぽい単語が……そういえばサキも言ってたなソレ。
「その『黙示録の原稿』ってのの説明プリーズ。手短に」
あっ! 購買のぼったくり爺が便所で倒れてる。――ザマァ!!
「万物の予言書です。世界中の国の文明、生まれる者、生きる者、死ぬ者、無限に広がる分岐点その全ての影響力、とにかく何でもかんでも世界が崩壊するまで、延々と随時勝手に記録される原書です。今は三千年後の部分を記録中だとか」
「思ってたよりもスケールでっかい話だった!!」
「魔王様の所持品ですからね」
しかも持ってるの魔王かよ!!
あ! そっか、それか小夜曲さんが言ってた魔王になると手に入る魅力的な魔術道具なんだ。
「まあ、そういう訳で黙示録の原稿に書いてある事以外の出来事は、起こったとしてもすぐ元通りになるよう生き物や神々の大前提を作った世界に動かされるのです。例え、異空間でも」
「世界ねぇ……」
もう何でもありだな。
後者から出て第二グラウンドに入る私は、失笑していた。
「小夜曲さん――うひゃ!」
「ピヨ! め、目が!! あ痛たたたたたたた!」
グラウンドに入るなり土埃が視界を遮る。誰の攻撃だこれ? 目に石が入るとこだったよ!
「土筆寺さん!?」
聞きなれた声に目を開いてそっちを向く。と、同時に私は固まった。
「………………ケモ耳と、尻尾?」
「あ、はい。実は狐の半妖でして……」
こ、これは…………日向さん、どう足掻いても勝てないわぁ。能力的にもそうだけど天然のケモ耳お嬢様って、ロリのエルフくらい最強に萌えるもん。勝てないわぁ。
「得子! いい加減にああああああああ!! 目がぁぁあああああ!!」
なんか急に出て来たので、反射的にチョキを作った指を突き出したら誰かの両目にクリーンヒットしてしまった。……あ、なーんだ椎倉かぁ。良かった無関係な人じゃ無くて。
「助かりましたわ。やはり情のせいか、颯太郎には手加減してしまいますの」
「そっか」
婚約者だもんね。椎倉も、日向さんに引っかからなければ小夜曲さんラブだし。
「四肢を引き千切って火達磨にした程度で終わらせてしまうんです」
「してないしてない。ソレを手加減してるとは言わない!」
椎倉って実は不死身なのかな?
「特定の武器でなければ死なないだけです。不死身ではありませんわ。はぁ……どうして今日に限って持ってないのかしら?」
普段持ってるんですか。そうですか。
「ぴぅっぷい!」
小夜曲さんの肩から私に日も無しスカイダイビングさせた奴が出て来た。
「あれ? ヒヨも来てたの?」
「ぷい!」
「ついさっき落ちて来たところを捕まえたんですの」
ヒヨが私の胸に飛び込んでくる。こいつ、さっきはよくも突き飛ばしてくれたな……と軽く睨んでいれば、クリクリしたドングリ眼をこっちに合わせて来た。
うっ……このキラキラした無垢な目、勝てる気がしない!
「あ、次が来ますわね」
「え? わっ」
小夜曲さんに抱えられて、私は真後ろの倉庫の上に移動させられた。同時に、今まで私と小夜曲さんがいた場所に大きなクレーターが出来上がり、続いてぶわりと突風が吹き荒れた。小夜曲さんに掴まって、私は吹き飛ばされないようにする、小夜曲さんは九本の尻尾が重りになるようで、そう簡単には吹き飛ばされないのだ。
「虫が一匹増えた程度で調子乗んなや、女狐」
風により視界がクリアになる。
声の主は椿原町彦だった。ふーん、アイツ魔導科なんだ。
「彼は普通科ですわよ」
「え? でも今乗って魔術じゃないの?」
「鑑定結果では魔力無しですの。今のはきっと、魔王候補の剣に与えられる特殊能力ですわね」
奥で的神が怪しい笑みを浮かべ、更にその後ろで目を白黒させている日向さんの姿が有る。うん、私も経験者だから分かるよ。乙女ゲーム展開を予測してたのにまさかの少年漫画展開が来てるもんね。そりゃ混乱するしか無いわ。
「全く、これ幸いに潰しに来るんですから困ったものですわ。あの魔王候補」
「ん? それってもしかして、的神は日向さん関係無しに仕掛けてるって事?」
「ええ。彼と椿原さんはそうです。颯太郎は馬鹿の極みですが」
クレーターの横で伸びてる椎倉を冷めた目で見る。四肢切られてもピンピンしてたみたいだから心配してたけど、目はやっぱりダメージが大きいようだ。そう簡単には復活して来ない。
「……あの、もしかして小夜曲さん、日向さんの性別も気付いてたりなんか」
「しますわよ。殿方だという事くらい」
やや遠くから「うそォ!?」という驚愕の声が聞こえた。私達の声、そんなに大きくないのによく聞こえるんだね。
「それよりもあのお二人の戦意をどうにかして削ぎませんと」
小夜曲さんが言うには、どうもこの異空間に引きずられた時に、彼女と日向さんは戦う事を放棄したらしい。が、的神と椿原ははっちゃけてしまったようだ。
小夜曲さんがサキの剣だから、という理由で。
「ちなみに、勝算はある?」
問題視すべきは的神だけだと思っていたため、ちょっと予想の外れた私の頬には、冷や汗が流れた。剣に、特定武器じゃ無きゃ死なないのとか、ズルい!
「私が本気を出せないので超ピンチですわ」
……ん? 今この人何つった?
「『本気を出せない』?」
誰か、聞き間違いだと言ってください。
「ええ。実は私、魔王候補に手を出す時は令状が必要ですの」
「そんな警察の捜索令状みたいな……じゃ無くて、そんな本気モードみたいな姿になっといて?」
「これは、ちょっと興奮してしまった結果ですわ」
詰んだ!!
「だから言ったではないですか! 足手まとい以上の絶体絶命状態ですよ!」
「タルトちゃん? いつからそこに?」
「ずっとです! ちょっと目に入った砂を洗いに行っていましたが……」
グラウンド入って一秒で退場したのをちゃんと見ていたよ私は。
「まあ……一応対策はありますの。空間魔術が発動する前に、香山だけどうにか逃がして千寿ちゃんを呼びに行ってもらいましたから」
「あ、サキ今家に居ないんだって」
「死にますわね」
的神が何か呪文みたいなのを詠唱しながら魔法陣描いているのが見えて、私も思わず「ですね」と相槌を打ってしまう。
「ちなみに小夜曲さん、あれ何の陣か分かる?」
「破壊光線的な物が空から降ってくる系か、地中から噴き出してくる系のド鬼畜魔術ですわ」
なるほど。発動するまでどっちから来るか分からない上に、発動した瞬間に動くと既に手遅れな攻撃か。
「そこに、『東西南北の動き三六〇度に追跡対応している』が付けば満点の答えですわ」
「わざわざ目を背けてるのに厳しいよ先生~」
あはは~。
うふふ~。
そんな雰囲気で語り合う私と小夜曲さんの耳に「それは駄目ですよ的神会長!」という声が聞こえて来た。
顔を向ければ、日向さんが的神の後ろから前へ移動している。
「私はっ……私は――――あの人を、殺したいわけじゃ無いんです! だからこれ以上は……っ」
「退け邪魔だ。低俗な人間種が」
「……ッ」
まずい。あの冷酷で忌々しい空気を隠さない目は、ターゲットを私達から日向さんに変えた目だ。
「視界の端をうろつくだけで殺意が湧いていたんだ。もういい頃合いだろう――――死ね」
日向さんの首に的神の手が絡まろうとして、私と小夜曲さんが思わず身構えたその瞬間だった。
遥か上空で閃光が瞬いた。
何っ? 魔法陣?
手で影を作り、凄く眩しいけど堪えて目を開ける。
複雑で巨大な幾何学模様の魔法陣の中心から小さな影が出て来る。それが人だと分かると同時に、さっきの物とは別の閃光が空間切り裂いて――グラウンドの三分の二と、その向こう側にある団地の密集地帯が焼野原状態だった。
頭が真っ白になる。とりあえず、どうして私達が無事なのかという疑問を持った時には小夜曲さんが結界を張ってくれたからだと気付いたけれど、なぜかその時、空が曇った。
……違う。この影は、雲じゃ無い。この影を作っているのは、魔法陣から出て来た巨大な頭だ。
サキが連れて行ってくれた空島に居たのとは、比べものにならない程の大きな竜が、私達を――否、魔法陣から先に出て来た人を覗き込んでいたのだ。
「寄りにもよってクイーンを連れて来るなんて、千寿ちゃんてばガチですわね」
「ぷにゅ」
巨大な岩のような鱗。荒々しい崖を曝け出す山が、そのまま動いているみたいだ。
それなのに、頭部にある八つの赤い目は、それが生物である事を嫌でもこちらに思い知らせる。
ん? 今、小夜曲さんとヒヨが気になる事言ったぞ。
「あれ、サキが連れて来たの? あんなの島には居なかったんだけど……」
「大きい子は別の場所に住ませてると言っていましたわ」
「何の話をしていらっしゃるんですか?」
何故かタルトが頭上に疑問符を浮かべていたら、最初の人影が私達と日向さん達の間に降り立つ。
上半身裸の痴女だけど、とんでもない美人だ。
「アレは……フェヴローニャ様?」
「知り合いなの?」
「今一番頭のおかしい縁結びの女神様です」
タルトの説明に突っ込むより先に、脳が冷静に動いた。
ああ……このタイミングで現れる女神様かぁ。
「ヤツだわこの下らん茶番セッティングしたの。ちょっと殺ってくる」
「誰か止めてください!! この自殺志願のバーサーカー!!」
タルトが叫ぶと、小夜曲さんが私の手を掴んで動きを封じた。
「止めないで」
「土筆寺さんが何かする必要はありませんわ。彼女が来ましたから」
竜の首が魔法陣の中へ吸い込まれるように引っ込んで行く。それと引き換えに、竜とは比べるにも値しないほど小さな影が――――舞い降りた。
「そんな……っ」
何か言いかけて、絶句するタルト。
「どうにか、死は免れそうですわね」
「にゃっぷ」
安堵の息を吐く小夜曲さんとヒヨ。
「ああ、随分と面倒な事に巻き込まれていたようだね」
「こりゃ、おとなしゅう下がった方がええかもなぁ」
「…………」
面倒くさそうな表情を浮かべる的神と椿原に、唖然としている日向さん。
舞い降りた小さな人影。
――サキは、私達とは目を合わさない。しかし、七色の粒子を仄かに纏い。対峙するフェヴローニャという女神を睨んでいた。
「どういう……事ですか?」
「タルト?」
サキを見てうわ言のように宣ったタルトに目を向ける。
「どういう事ですか? 千寿様は魔王候補です。なのに何故、神属級魔力を使っているのですか?」
私には魔力の見分け方なんて分からないけれど、さっきのタルトの話を聞いた後だから、それがおかしな事だというのは分かる。
タルトの呟きは、そこで終わらなかった。
「それに、竜を使役していた……竜を使役する神属級魔力を使う娘なんて、そんなの――
――かつて一度世界を滅ぼした邪神、破滅と創世の女神『終始の夕刻』そのものじゃないですかッ!!」
はぁ、ずっーと書きたかった場面がようやくかけました。




