23.閑話③
日向環菜は俯き、現実に見えている手では無いもの――入学してからの己の過去を振り返っていた。
ハーレムを目指し、ひたすら男に媚びを売った。
乙女ゲームの攻略キャラ。秀でた際を持つ非常に整った容姿をしていると同時に、心の奥底に暗い部分を抱えている男ばかりに。
椿原町彦。スポーツ万能で水泳部のエースにも関わらず、他の部にも助っ人に呼ばれているコミュ力が馬鹿高い似非関西弁。数年前、己の不注意により招いた水難事故で亡くなった母の事を気に病んでいる。攻略難易度★★。攻略必須条件、ライバルキャラや取り巻きの邪魔をするか、「貴方のお母さんは、貴方をそんな小さい男にするために助けたんじゃ無い!」と言わざるを得ない展開へ持って行き、正面切ってぶつけるべし。
椎倉颯太郎。ライバルキャラの幼馴染で婚約者。事務処理能力及び、お金持ちであるにも関わらず家事の万能さが高い男(※ゲームの設定上では)。かつて幼馴染に一生消えない傷を作った事で、自分の魔術的な潜在能力に恐れを抱いている。攻略度★。攻略必須条件、ライバルキャラや取り巻きの怒りに触れるか、初対面でも唇を奪う。
的神蓮沙。学校の王子様的な生徒会長。実は人族では無く吸血鬼で、次期『始祖の王』。なんでもこなす完璧超人だが人の愛し方が歪。存在そのものが病んでる中二病な部分が心の闇。攻略難易度★★★★。攻略必須条件、ライバルキャラと取り巻きに殺されかける事。
――二人は落とした。と、日向はいつの間にか閉じていた目を薄く開けた。
この世界はゲームであり、現実である。攻略のための手順、イベントが起きた際の対処法、ゲームでは選択肢として選ばされた台詞は変えない方がいい。が、攻略――『告白に対しOKが出る。或いは、告白されてOKを出す』という結果だけを出す進度は自由だという説明を受けた日向は、二人とも早々に攻略した。所々、引っ掛かりを覚えながら。
その引っ掛かりは、日向がゲームとして知るこの世界を『好きでは無い』と決定付けたものだ。
このゲームは、日向環菜と攻略キャラしか幸せになれない。それ以外が、虫けら同然のように神からも見放されている。
なぜ恋などという精神病のために、自分が余計な事をしなければ笑っていられた誰かを踏みにじって良くなる?
なぜ誰も、そのちゃんちゃらおかしい芝居に文句をつけない?
頭の中で、湯が沸騰するような音を日向は聞いていた。
男にモテたい願望など無かったのに、男を落としに行かなければならない事に。おかしいと分かっていながら、その三文芝居の主役を演じる自分に。
それでも――誰が貶められようとも、自分がいかに滑稽でも、どんなに苛立っても、日向環菜は全員を攻略しなければならない。日向環菜によって、救済される人間の世界が作られなければならない。そんな日向環菜という存在が、この世界には居なければならない。
日向がそう叩き込まれたのは、愛だの恋だのとは無関係な理由からだ。『だから』と言っては思い上がりも甚だしいだが、日向は『良し』としたのだ。
――叩き込まれた内容を肯定し、受け入れたのだ。
他人を裏切る事、大切なモノを踏み躙る事、己を犠牲にする事。どれもこれも嫌悪している場合では無いから。
日向はそっと、食堂の壁に嵌め込まれた大きな窓の外を見る。
体育の時間に女子が使う小さな体育館に理科室と空き教室が三つ入っている校舎だった。
「如月…………」
小さな声で、この世界で自分を『相棒』と呼んだ少年の名を呼ぶ。
今、あの少年が何をしているのか。――それは事前に聞かされている。ゲームの本来の予定よりもだいぶ早く、最後の一人……
「環菜、今日は他の奴らは居ないんだね?」
「あ、的神会長」
的神蓮沙を攻略すべく。
続きは、明日更新予定です!




