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18.料理

二クラス合同の調理実習の話ですが、家庭科室の大きさや一班の人数などは無視しています。


 そして、運命の六月初旬。


「世界滅べ」


 私はの内心には、早くも梅雨模様により大雨洪水警報が出ていた。


「土筆寺さん、初っ端から何を仰っていますの?」

「そうだよ。アミダで班決めするって知った時は落ち込んじゃったけど、土筆寺さんと一緒の班になれて私嬉しいよ!」


 目の前で、小夜曲さんと日向さんがエプロン&バンダナを装着していく。何で……何でよりによって、この二人と一緒なんだ!

 この組み合わせになるのを回避すべく、ちゃんと対策したはずだった。昨年までは生徒達が各々勝手に班決めしていたようだが、神様が私に味方したのか今年からアミダクジで班決めするようになったのだ。で、その知らせを聞いてクジを行なったが一昨日の放課後。よって、今この瞬間の発表の前に、知り合いに頼んで細工してもらう事にした。日向さんと同じ班になるのを回避し、サキやリトと同じ班にしてもらえるように。

 昨日の昼休み、真辺さんにちゃんと賄賂(激旨メロンパン)を渡した。……のに何故!


「そういえば土筆寺さん」


 エプロンの紐を結んでくれると言う小夜曲さんの言葉に甘えて後ろを向けば、キュッとかなりきつめに紐が私の腰を締める。


「さっ、小夜曲さん……?」


苦しいってか痛い!


「班決めで不正を働こうとした不届きな女性を今朝発見したのですが……土筆寺さんのお友達だったみたいですわねぇ?」


 あああああああああ!! なんてこったこの人の差し金だったー! 真辺さんどうなったんだろう!?  生きてるよね? 今日一回も見てないけど生きてるよね!?


 彼女の末路を聞くのがあまりにも怖くて心臓をドッキンドッキン鳴らすしかない自分が情けない。だが、これは条件反射のせいだ。だってここ最近ね、魔力を使いこなす訓練内容がハード過ぎて変なんだもん。ブリューナク無しでお腹空かせた鰐とか虎と喧嘩させられたんだもん。死ぬかと思った。てか、何で生きてるのか分からない。小夜曲得子の恐ろしさがゲームより無茶な進化を遂げてる件についてヘルプ! 誰かヘルプ!

 ……死んでたらゴメンね真辺さん。


「今日のメニューは炒飯と餃子と卵スープです。餃子の皮は一班二四枚です。予備はありませんからね」

「「「はい!」」」


 先生の軽い注意と他の人達の返事が聞こえると、パッと小夜曲さんは私を解放した。


「怖かった、このまま殺されると思った」

「殺しませんわ。やっと観察対象がまとめて揃ったのですから」

「……え?」


 小夜曲さんの小声に思わず一言零した。


「あら、聞こえまして?」


 また小声が返ってくる。


「観察対象って?」


 小夜曲さんに合わせて小声で問いかけると、彼女は先生からの注意事項にしっかりと耳を傾けている日向さんへと視線を送った。


「彼女も、貴方と同じで聞こえない時があるのです」


 何が? なんて今更聞かない。小夜曲さんの耳が、小夜曲の意思とは関係なく拾う――他人の『思考』の事だ。

 そういえば小夜曲さん、遠足前に日向さんの事を気味悪がってたな。


『――転入生がずっと私を凝視してきて、居心地が悪いのです』


 言い方からして言動が変で嫌ってのも混じってたけど、


『――時々小声でブツブツと『悪役令嬢』『悪役令嬢』と仰っていて、なんだか怖くて』


 一番嫌だと思ったのは、何を考えているのか分からなかったからだろう。じゃなきゃ『怖い』なんて単語、出そうに無い。

あれ? ……でも。


「確か小夜曲さんより高い魔力持ってる人の声は聞こえないんだよね? 日向さんもそうなんじゃ……」

「一部が途切れるだけで下らない思考が流れてくるのであれば、私より下ですわ。その証拠に土筆寺さんは、私に一回も勝った事が無いでしょう?」


 にーっこりと、恐怖の女王様が一部黒い物が見える笑みを浮かべる。

 私は「そうですねー! さーせんっ!!」と、即謝罪して調理にとりかかった。






 ――炒飯ってフライパンの中で具材混ぜて焼くだけだったはずだけど、授業で作るもんかなぁ?

 なんて考えながら私が白菜を切っていた時。


「お米を洗う洗剤はどこでしょう?」


 お嬢様がボソっと怖い事宣った。


「小夜曲さん、ご飯はもう炊けてるから洗う必要無いよ」

「あら、そうでしたの?」


 パカっと炊飯器を開けツヤツヤふっくらした白米を見せれば、小夜曲さんは明るい表情を浮かべた。


「ちなみに……小夜曲さん料理の腕前は?」

「うふふ。香山で試し済みですわ! 曰く、失神する程美味しい!」


キメ顔で仰る小夜曲さんだが、それ絶対に美味しくない。人が失神する料理ってたぶん毒だよ。


「土筆寺さん、白菜まだ? こっちはもう生姜を擦り終わったよ」

「ああ、うん。もう切り終わる……よ?」


 鈴の音のような声に振り返れば、ドヤ顔で刷り終わった生姜を差し出しているはずに日向さんの手に――赤と紫のマーブル模様な砂利があった。


「日向さん?」

「何?」

「生姜を擦ってくれたんだよね?」

「うん。奇声をあげるほど活きの良い生姜で大変だったよ」


 生姜が……奇声を上げたんですか、そうですか。

 周りの様子を伺ってみるが、どの生姜も静かにゴシゴシ擦られている。奇声なんて上がるはずが無い。

 こっそりどこかの班から余ってる生姜分けてもらおう。この班に配られた生姜の信用性と安全性はゼロだが、何故か物凄くやりきった感に満ちている日向さんの表情を壊すのは人間としてどうかと思う。


「…………じゃあニラ切るからお肉の準備お願いして良い?」

「うん」


 ニラを光速で切り、こっそり隣の班から余ってる生姜を貰って擦った。

 同じ台で調理してるのに日向さんと小夜曲さんは私の行動に気付いていない。私、凄いかもしれない。何て思っていたら……、


「卵スープ、もう少し具を入れた方が栄養あって良いですわよね」


 最後に作るはずだった卵スープに早くも手を出し、レシピ通りなら卵と調味料だけしか入れなくて良い物に、要らん手を加えようとしてる方がいらっしゃった。


「生クリーム……が無いので練乳を加えたら良いかしら?」


 どこからか取り出した牛さんマークの練乳が眼中に入った瞬間、私はほぼ無意識に手を動かして小夜曲さんからそれを奪う。


「あ! 何をなさるんですの!?」


 目を剥く小夜曲さんだが、それはこっちのセリフだ。よく考えて欲しい。私達が作ろうとしているのは鶏がらスープの素と醤油で作る卵スープなのだ。何をブチ混もうとなさっているのか!

 その事を指摘すると、小夜曲さんはムッと眉間に皺を寄せた。


「でも苺とは合いますわ」

「そりゃそうだけど――待って。まさか入れたの?」

「はい! バッチリですわよ!」


 鍋の中を覗き込めば、苺、バナナ、マシュマロと……色々手遅れだった。

 ぐはぁ!! 通りで私の行動を一切気にしなかった訳だよ! この人ったらオリジナル卵スープに熱中してたんだ!


「あれ? ミンチが勝手に動く?」


 そしてまた、別の方向から聞き捨てならない言葉が鼓膜を通り抜ける。

 声の主は日向さん。そして白菜とミンチを混ぜてるはずの彼女の手の先には、


――モゾモゾグッチャグッチャ。


 ひぃいいいいいい!

 本当に一切日向さんは手を動かしていない。のに! 勝手にボウルの中で肉がうねっている。ちょちょっ、鳥肌もんだよ! 何で日向さんも小夜曲も動揺してないの!?


「あら、日向さん。ニラと生姜を忘れていましてよ」

「あ、ありがとう」


 ぎゃああああ! 小夜曲さんが躊躇無くブっ込んだ生姜ッ、日向さんが擦った方だー!


「あれ? 色が……」

「抹茶色になりましたわね」


 ガタガタガタガタガタ。

 う、蠢く抹茶色の肉っすか?


「まあ、餃子の皮で包めば中身なんて分かんないし気にならないよね!」

「そうですわね。きっとニラが多かっただけですわ」


 ブルブルブルブルブル。

 駄目だ。喉詰まらせるとか絞殺以前の問題だ。このままじゃ私、人が食うもんじゃ無い物食って死ぬッ!


 ライバルキャラとヒロインは『混ぜるな危険!』だ。いや、そんな事よりも! これって料理の良い香りに誘われて攻略キャラが寄ってくるって話だったはずだ。ハーレムルート突入出来たならその際時計塔の鐘がゲームの主題歌奏でるとか聞いた覚えがある。でも、この凄惨な餃子と卵スープから良い香りなんかするだろうか? する訳無い。たぶんするとしたら異臭だ! となると、待っているのはヒロインのバッドエンド。ちなみにそうなると、巨大隕石が学校に激突して皆死ぬ展開が待っている。


 …………どうしてあのゲーム、糞ゲー認定されなかったんだろう?


 思わず遠い目をしていると、「ミカちゃん」という聞き慣れた呼び声と、橙色の髪が目に映った。


「サキー! もう私どうしたらいい!?」

「え? ええ!?」


 カクカクシカジカツノシカ――。

 とりあえず乙女ゲームに関しては避けて、このままだと変な物食わされて死ぬか隕石到来で死ぬとサキに伝えた。前者はともかく、後者は頭おかしくなったと思われたかもしれない。


「食べたくないなら食べなければ良いじゃないですか。それに私、これでも魔王候補ですよ? 隕石なんて降ってきても結界で太平洋までポイしますよ。ついでに昨日時計塔の鐘を半壊させてしまったので、ミカちゃんが気にしてる音は鳴りません」

「そんな……サキが、サキが頼もしく見える、だと!?」

「今まで見えた事なかったんですか!? ほら、ミカちゃんとリトくんの怪我治した時とか変態さん撃退した時とか!」


 ……あったけど、変態の撃退に関しては『童女を甚振る女子高生』っていう字面にしたら人畜非道極まりない光景だったからなぁ。


「うぅぅ、ふえーん! ミカちゃんの恩知らずー! 味見させてあげようと思いましたけど別の人に頼みますー!」


 あ、泣いて自分のとこ戻って行ってしまった。しくった。サキの班はたぶん九割サキが作ってるに違いない。あの子の料理めっちゃくちゃ美味いから。……味見、したかったな。

 にしても何であの子、時計塔の鐘半壊させたんだろうね?


「まあ素敵。炒飯が虹色に染まってきましたわ」


 考え事してる場合じゃ無かった!


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