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15.説明②

お久しぶりです。更新が遅くなり申し訳ございません。

以前とかみ合わない部分が有るかもしれません。

何かありましたら、ご指摘くださると嬉しいです。

 学生で賑わうそれなりに人気のテーマパークで、魔獣が暴れて大混乱。死者まで出た大事件。

 大雑把だが、それが本来起こった三日前の真実だ。

 私とリトは、その事を憶えていたはずだった。けれど……けれど、まるで遠い昔の出来事のように重要視する必要が無いと、今この瞬間まで思って――何、コレ? ……気持ち悪い……。


「千寿ちゃん! 初心者相手にいきなり洗脳を解きましたの!?」


 驚愕に満ちたその声は、小夜曲さんのものだった。机に突っ伏した私のすぐ傍まで来た彼女の手が後頭部に乗る。


「い、いいえ! 勝手に解けたみたいです!」

「そんな訳…………えっ」


 何だろう。サキは狼狽えた声出してるし、小夜曲さんは意味有りげな一文字を声にするし。


「ミカさん!」


 不意に体が傾いて、私はリトの膝の上に頭を乗せる形になってしまった。不安そうに私を覗き込むリト。……リトは、何とも無いんだね。


「大丈夫……。お湯で頭痛薬飲んだみたいになっただけ……」

「大丈夫に聞こえませんよ、それ」


 自分でもそう思うが、訂正するにはあまりにも体がだるい。でも、このまま横になってたら少しマシになりそうな気がする。


「魔力酔いの一種ですわ。洗脳が解けて、脳を覆っていた他者の魔力がいきなり体中に回ったのでしょう……普通は数か月かけてゆっくり脳から消えて行くのですが」


 言葉を呑み込んだ小夜曲さんは、一度サキの方へ目を向ける。でもすぐにまた私に視線を戻した。


「この先は私がお話しますわ。このまま千寿ちゃんに任せたら、土筆寺さんがウッカリ病院送りになりかねませんもの。いいですわね、千寿ちゃん?」

「はい、ミカちゃん……ごめんなさい」


 元々怒ってたりしないし。サキと小夜曲さんの様子を見れば、私の身に本来あり得ないような事が起きたのだと分かる。誰にも非なんて無いので、私はなるべく軽い口調に聞こえるように「良いよ別に」と、言ったつもりだった。


「ごめんなさい……」


 ……うーん、サキのしょんぼり度が増している。不機嫌を晒して突き放してるように聞こえたのかもしれない。


「今回の事件ですが、千寿ちゃんの言った通り真実を公表される事は未来永劫ありません。実際には数人お亡くなりになりましたが、既に魔導協会が根回しをしています」

「理由を聞いても?」

「魔王候補が関わってしまいましたから」


 小夜曲さん曰く。魔王と呼ばれる者に関わりある何かがちょびっとでも関わると、例え国家レベルの問題だろうが容赦無く握り潰される方向に持って行かれるらしい。

 ちなみに、小夜曲さんがそんな話を知っている理由も当然疑問に思ったので聞いた。吃驚仰天、協会でかなりの要職に就いてる女の子だからだった。握り潰す側なんだね、納得です。


「亡くなった方の遺族の事を思えば罪悪感が込み上げて来ますが……魔力無し判定を受けている身でありながら、魔獣を刺殺した土筆寺さんにとってはラッキーでしたわ」


 急須の茶をコロンと丸い湯呑み茶碗に注ぎ私達の前に置く小夜曲さん。上品で無駄の無いその動作には、思わず魅入ってしまう。

 そういう理由から私がぼんやりとしていれば、「つまり、サキさんが手を出さなければ……」とリトの喉が小さく上下に動いた。


「今頃……土筆さんは、警察の取り調べを受けたり協会に勧誘されたり、しかるべき研究施設でモルモットにされていた可能性も否定出来ませんわね」


 淡々とした小夜曲さんの口調に、背筋がゾワっと急激な寒気に襲われた気がした。

 そりゃあ、自分が常識外れな事をやらかした自覚は有ったが、実験モルモットにされる程だとは微塵も思っていなかったからだ。

 そしてどうやら、リトには私の心境が伝わっていたらしい。骨張った大きな掌が額を覆い、遠慮がちに撫でてくる。


「あの、ミカさんこんなですから。早めに帰れるように、ミカさんの身にあの時何が起こっていたのかをそろそろ聞いてもいいですか?」


 ちょっとずつ自分では体調が元に戻っていっている気がするのだけれど、リトにはそう見えないみたいだ。本当に人を心配している時の声で小夜曲さんに訴えれば、彼女の桔梗色の瞳と私の瞳が視線でぴったり繋がる。


「何が起こったのか、それは土筆寺さんが一番知っている事ではないでしょうか?」

「はい?」


 リトが首をかしげた瞬間、ポテッと私の太腿の上に何かが落ちてきた。

 確認してみれば、タルトがラーメン丼の底を天井に向け、黒く丸い頭が私の腿の膨らみで出来た見開きの本のようなクレバスにフィットしている。

 どうしたんだコイツ? と眉を顰めれば、チルチルピーというか細い笛のような音が耳に入った。これ……もしかしなくても寝ているんじゃないだろうか? うん、寝てるよね。


「早速効いたようですわね」


 朗らかに笑う小夜曲さんのその一言で、一体何が起きたのか分かってしまった。睡眠薬を盛ったと。優雅な動作しか私の目には映らなかったんだけど、いつの間に……。


「ここから先は、千寿ちゃんがタルトちゃんには知られたくないだろうと思っていましたの。注意書き指定の十倍盛りにして正解でしたわね」

「ねえタルト大丈夫? 全身が痙攣し始めてるけど?」

「簡単には死にませんわ。悪魔の端くれですもの。心配なら裏庭の草でも適当にあげてくださいませ。薬草があったかもしれませんわ」


 雑ッ!!


「 で、タルトに聞かれると嫌な話とは?」


 私が軽く衝撃を受けてる間に再度リトが話の続きを促した。リトの順応性マジ(たけ)ぇな。


「話自体は大した事ではありません。土筆寺さんが竜と契約し、平凡な人間では無くなった――これくらいはタルトちゃんも既に知っていますので」


 …………りゅう?

 私は先日のことを思い出す。結界の中に引きずり込まれ、白いふわもこ生物と遭遇し、機械音みたいなのが脳に直接響いてからの力戦奮闘。うん、やっぱり竜なんてカッコいいものに出会った記憶が本当に無い。

 竜は壊滅的に数が少なく、野生の竜などもう存在しないとまで囁かれている程少ない。そもそも高ーい天空で行動している連中らしいので、生まれてこのかた登山経験ゼロ、しかも自転車・自動車・電車・船と言った宙に浮かない系のものにしか乗った事の無い私が出会う事など有り得ない。…………はずなのだが、まさかあの白いふわもこが竜なんて言い出すんじゃ無いよな?


「ええ。とても珍しい竜の幼体だそうです。数年すれば産毛が鱗に変わって竜らしくなりますわよ」


 あの贅沢な毛はまさかの産毛! てかこの人、容赦なく人の心読んでくるな。ちょっとは遠慮してください。


「タルトちゃんに聞かれて困るのは、私と千寿ちゃんが竜とその契約者に関して詳しい知識を持っている事ですの。なのでお二人共、今後タルトちゃんに何か聞かれても私達が話したという事はどうかご内密に」


 真剣な小夜曲さんの様子に理由も気にせずコクコクと頷けば、彼女は硬かった雰囲気を幾分か緩いものへ変えた。


「竜は自分の体液を摂取した者を契約で結ぶのですが、これは千寿ちゃんと土筆寺さんがラーメン屋に行った昼休みに行われたようですわね。千寿ちゃんの心当たりと、彼女覗いた不届者の記憶でも確認されていますわ」

「気になる部分が多々有るけど、それよりまず私自身に心当たり無いのを指摘していい?」


 そろそろ体調が戻ってきたため、リトの膝枕から頭を上げて座り込むと、小夜曲さんとサキが顔を見合わせていた。


「本当に覚えが無いんですか?」


 サキがパチパチと瞬きしながら問う。うーん……よく分からないけどそんなに意外な事なんだろうか?


「千寿ちゃんも私も直接見たわけでは有りませんが、調査していくと不届者どもが貴女に竜の体液が入ったと判断した映像が、彼等の工房にあったパソコン内に残っていたそうですの。その中で土筆寺さんは痛みに駆け出していたそうですが……」


 昼休み。痛み。

 あ! 目にゴミか何か入ったアレか。あの後どれだけ洗ってもジンジンした感覚が残って保健室に向ったのを思い出す。保健の先生が異常の見当たらない私の目を見て、どうして痛むのか分からず首を傾げていたっけ。


「思い出した。てか、見られてたんだアレ……」

「運命の悪戯といいますか、ナノサイズの飛行カメラを丁度その時試運転していたようですの。他にも自作の衛星で色々監視していたり……」

「敵って何やってた人――やっぱいいや、ロクでもない事やってたのは分かるから」


 聞いたらその存在のしょうもなさに、手をバッキバキにやられた自分が惨めになりそう。


「有名な錬金術師ですから落ち込む必要はありませんわよ?」

「小夜曲さん、そろそろプライバシー配慮して」


 そんなズバズバ心を読まないで!


「仕方ないですよミカちゃん。勝手に聞こえちゃうんですから」


 そこでサキのフォローが入り、私は目を瞬かせた。


「自分ではどうしようもないって事?」

「はい~、ナリちゃんのお耳は人より優れてますから。でもミカちゃんのは比較的聞き取りずらいそうですよ?」


 さっきからバシバシ聞いてんじゃん。とつっこむ前に、湯呑みに手を伸ばしていた小夜曲さんが嘆息した。


「時々プツンと途切れるんですのよ。最初は『遮断』の魔術を使っているのだと思ってましたが……その様子からするとやっぱり違うみたいですわね」


 ジッと見つめられ、無意識に腹に力が入る。すっごい探られてる感じがするのだ。もしかしてこの人が私に構って来てた理由はその事で不審者だと思われていたからじゃないだろうか?


「まあその事については、追求していく時間がこの先できましたので今は深く言いませんわ」


 ……ん?


「千寿ちゃんからお願いされてしまいましたの。貴女と榊君に魔術の使い方と戦い方を訓練するようにと」


 ニッコリと、心なしか黒い靄の見える笑みを浮かべた小夜曲さんに私達は硬直した。

 サキー!? あんた何勝手にお願いしてんの!


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