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13.閑話②

申し訳ありません!

プロットにもなっていない書く事リスト見直したら次のお話は色々説明する話では無く、得子さんのお話でした。


 木や岩を華奢な影が飛び跳ねて行く。影の正体は、深緑の長髪を靡かせる女だ。女は森の中を、いわゆるフリーランニングで移動しいた。騒がしい一点から、遠くへ、遠くへと。一歩でも進まなければ、明日が来ないと知っているから。


 いつしか最恐最悪の錬金術師犯罪者に名を連ねた自分が、魔獣で創った合成獣に襲われるフリをしただけで苦渋を舐めさせられるとは……。それもこれも、あの糞の役にも立たない弟子を称する馬鹿者のせいだと、女は舌打ちする。


 巨大な切り株を蹴り紫色の実を付ける木の枝に飛び移った所で、女はポーチの中に手を突っ込み、細いガラス瓶を取り出した。チャプンと、角度によって水色にも黄緑色にも見える液体が瓶の半分程を満たしている。女が自分で作った身体能力を上げる液体だ。身体能力を一瞬で急激に上げる薬品は市販でも有るが、女の作るこの液体は、それより高い効果があった。が、当然ながら市販の物より副作用も強い。半日経った頃から酷い睡魔に襲われるのだ。そして眠ってしまうと、自力でも他力でも絶対に二日は起きられない。しかし、この薬で二日寝こける程度は可愛いものだった。立て続けに瓶四本分を飲んだ実験モルモットは六年も眠ってしまったからだ。「計算が合わない!」と、女が頭を抱えた事は言うまでも無いだろう。そして、本数と眠る日数の関係性は、今もなお解き明かされていない。


 女は奥歯を噛んで考えこむ。

 既に一本使っている。だが一本だけでは今回逃げ果せる事は不可能だろう。だからと言って、もう一本此処で使うのはリスクが大きい。

 強敵を一人相手にするかもしれないとは思っていた。だが、強敵は一人では無かった。想定していなかった存在が居たのだ。


「何でよりによって――」

「私が居るのか……と、仰る気ですの? テンプレ過ぎてつまらないですわ」


 小鳥のような少女の声が耳に届いた直後、ドオォンッと……。壮大な音が女の頭上から響いた。

 壊れた人形のように音源を見れば、彼女の頭より数メートルは上にあった木の天辺が無くなる。折れて地面に倒れた訳では無い。と、彼女の視界が映すデタラメな現実が脳に刻む。

 原子レベルで破壊されたという暴力の権化を。


「リアン・サーキス。――国際指名手配中のテロリストが、まさか極東の島国の小さな娯楽施設で家族ごっことは、意外ですわ」


 夕暮れが近い森の中は、木の影と日の当たる場所のコントラストが激しい。チラリ、チラリと絶望の影が見えても、希望を抱かせるように木の作った黒が声の主を隠す。

 だが、桔梗色の瞳が影の中で鋭く、そして怪しく光った途端に女あらためリアンの希望は粉微塵に砕かれた。


「小夜曲……得子」


 リアンの手から滑り落ちたガラス瓶が、枝にぶつかり割れる。しかしリアンはそれを気にする事が出来なかった。そもそも手から切り札が消えた事に気付いてさえいない。それほどまでに、彼女にとって得子の存在は由々しき事だった。


 小夜曲得子。齢満十六となる儚げな美少女の肩書きはこうだ。

 『魔導協会・公安室・室長』


 魔導協会とは魔導の関わる犯罪や災害を解決・予防する特殊な協会だ。得子は、その中でも公的機関から裏組織まで際限無く密接し、殺しの関わる汚れ仕事を好む魑魅魍魎が集う部署の最も危険人物として、名を馳せていた。


「そこまで怯える必要はありませんわ。貴方には、あの魔獣――いえ、合成獣をいかにして作ったのか、我が協会の工房で話していただく必要がありますので」

「な……っ」


 リアンは絶句した。

 何故なら、得子の口にした合成獣を創ったのは彼女では無い。彼女が『糞の役にも立たない』と評した自称弟子だ。だが、知らないと正直に口にすれば今この場で殺される事は確定。だからと言ってこのまま騙して連れて行かれたら、ほんの少しは生き延びられるがただ殺されるより酷い仕打ちが待っているだろう。得子の名が犯罪者達を震え上がらせるようになってからというもの、日本の魔導協会から『情け容赦』という字面は消えたと、専らの噂になっている。


「どうかなさいまして? 顔色があまりよろしくありませんわ」

「…………」


 リアンは考える。この状況を打破する策を。

 ベストなのは、僅かな時間であの合成獣の創り(レシピ)を再現する事だ。自分の工房で確認出来ないのが恐ろしい事この上ないが、不可能では無いとリアンは決め付けた。弟子だなんだと、ずっと付きまとっていた変態に創れたのだ。自分に創れない訳が無いと。


「そうそう。これは協会とは別の筋から入手した情報なのですが、貴女方は、非公式に飛ばしていた衛星で竜の子が地上に降りていくのを確認したとか」


 微かにリアンの方が跳ねる。そして得子の目はそれを見逃さなかった。楽しそうに――何も付けてはいないが、林檎のように赤い唇が弧を描く。


「そこから、今回の計画が始まった。ここ数日騒がれていた連続殺人は、食べた人間の脳から知識や魔力を吸収する魔狼を混ぜ込んだあの合成獣の試運転。真の狙いは竜から騎士の資格を与えられた土筆寺さん……これだけなら、すーっごく色々我慢して命だけは保証してあげても良かったのですが――」


 刹那、地震のようにリアンは足元から揺れを感じ取った。だが、それは得子が起こした彼女の

中に普段隠されている魔力――否、霊力の爆発である。


「貴女、陰陽師と手を組みましたわね?」


 ゆらり、と。得子の背後に人には無い部分(もの)の影を見たリアンは、声の出し方を忘れた。その異形の姿に恐怖を抱いただけでは無い。


 始めから、目の前の少女が自分を生かす気など全く無かったのだと悟ったが故に。


 小夜曲得子には、嫌いなものが三つある。うち二つはしょっちゅう変わるのだが、一つだけは決してその中から外れない。

 それが『陰陽師』だ。


「土筆寺さんを呪ったでしょう? 名前は忘れましたけれど、『必ず食べに行く』という目印の呪いを。写真の話をしましたら千寿ちゃんにその可能性を示唆されて、吃驚いたしましたわ」


 得子は「そして……」と一拍間を置き、


「虫唾が走りました」


 感情の無い声の直後、肉塊と血飛沫で辺りを汚した。






 ふぅ……と。頬に着いた血を拭い、片付けをしたばかりの得子は空を見上げる。そこには、ラーメン丼ぶりに嵌っている丸々とした鳥が飛んでいた。


「タルトちゃん。素敵な情報を有難うございました」


 そっと両手を上にあげれば、黒い鳥は彼女の手の中に納まる。

 黒い鳥。否、タルトは、千寿が敵の記憶の覗いて知った情報――帝達を襲った少女の母親だと思われていた女性が実は師の錬金術師である事。彼等が万一に備えていた逃亡経路――を得子に伝えたのだ。


「全ては千寿様の指示です。それよりよろしかったのですか?」


 黒い鳥にもし眉が有ったら、八の字を描いているように思えた。

 得子はそんな風に思ってしまった自分自身に疑問を抱きながら「何がです?」と、タルトに聞き返す。


「陰陽師の事を聞かなくて、です。御母上の仇かもしれないのでしょう?」

「……最初は期待していましたが、『例の男』は、私の霊力で怯む程度の小者に手を貸すタイプではありませんわ。彼女に近寄って来るのは小者ばかりでしょう」


 小さく、「まあ、近寄って来た自称弟子にはそれなりに実力が有ったように思えますが……」と加えた事にタルトは苦笑を浮かべていた。


「それより千寿ちゃんは大丈夫ですの? とても信じられませんが内と外から結界を圧し潰したそうですわね?」


 コクコクと頷いたタルトに、一度遠い場所を見つめる得子の目……。


「魔力抵抗の大きい結界の内側に自分の結界なんて張れないのが常識ですのに……さらに外向きに力を加えて圧し潰すなんて……ほとんど力任せの技でしょう? どんな高位魔力でも消耗が激し過ぎて倒れる事間違い無しだと思われますが」

「作業中は苦しそうに顔を歪めておいででしたが……」

「やっぱり」

「あ、でもそれは無意識に息を止めてたからでして」


 思わず「馬鹿ですの!?」と口にしかけて抑えた得子は、とても疲れた表情で「……千寿ちゃんらしいですわね」と絞り出した。


「千寿様はウッカリさんですからね。後はピンピンしてましたよ。それよりも竜騎士様の武器が凄いのですよ! 伸縮自在の槍なのです! 敵の腕と脇腹の間に入った瞬間、長い槍が短くなっていたのです!」


 どうやらタルトは、千寿が結界を潰している間に帝の雄姿を観戦していたらしかった。

 ちなみに槍の長さの話は見ていた者しか今のところ知らない。帝は当時必死のあまり気付いていなかったからだ。


「まあ、それは中々興味を惹かれますわね」


 クスッと、得子は目を輝かせているタルトに笑みを零す。


「ですが不思議な事が一つ」

「はい?」

「どうして千寿様は、彼女が竜騎士の資格を持っていると知っていたのでしょう? そもそも竜騎士の存在を知っていた事が――」

「タルトちゃん」


 柔らかい口調で、得子はタルトの言葉を切った。そして頭上にたくさんの疑問符を浮かべているタルトの大きな頭部にキスを落とす。「ピヨッ!」と、驚愕と嬉しさが半々の鳴き声を聞くと、彼女はまた口を開いた。


「素敵な女の子ほど秘密が多い物ですわよ」


 要は『詮索するな』という一言に、タルトは人の言葉では無く「ピヨピヨ」と返していた。


次がサキによる色々な説明になります。

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