00.記憶 (帝)
初めまして。
書いた物を投稿したいという気持ちだけで突っ走った者です。
勉強不足な文章で至らぬ点が多いと思いますが、よろしくお願いいたします。
まさに麗らかな春の午後の事。
「ふわわあああああ!! ミカちゃん避けてくださいぃぃいい!!」
なんてものは、数秒で崩れ去った。
「は? ……アンタ何で空から! ちょっと、無茶言わないでよぁああああ――」
聞き覚えのある声が遥か上空から響き渡り、私こと土筆寺帝がそちらを見上げれば、幼馴染が降って来ていた。
どっから紐無しバンジーなんかに挑戦しちゃったの!?
なんて尋ねる間は当然無ければ逃げる間もなく、顔面をFカップで潰され、圧迫されて意識を手放した。
――つかの間の暗転……。
「でねー!」
暗闇から、景色が賑やかな色彩に変化した。テーブルの向かいで切り出した興奮気味の少女を、思わずポカンとした面持ちで見つめる。
私、確かどっかの馬鹿の下敷きになったはず……。つーかこの子は誰だっけ? なんか知ってるけど思い出――したわ。前世の友人Aだ。夢で前世を見る日が来るなんて思わなかった。
そう、しみじみとした気持ちを噛み締めていればだ。
「椿原君ルートは 〔聞き苦しい単語〕 が 〔恐ろしく下品な単語〕 で! 的神君は 〔放送事故確定の単語〕 だと思ってたんだけど、誕生日の日に〔都条例に抵触してる単語〕 なのー! むっはぁー!! 思い出すだけで私の中の熱湯がマグマになって溶けちゃいそーう!!」
この女、聴覚の暴力……否、テロかましてきやがった。
夏真っ盛りの午後。部活帰りに学校近くのファミレスで駄弁っていただけなのになんて事……。
最近はまっているゲームや小説の話になった時点で話をどうにか変えておけばよかった。
というのも、私は彼女が好きなゲームにはあまりはまっていなかったからだ。小説の話オンリーに出来れば持って行きたかったのに大失敗した。
段々と複雑な気持ちになってきた。今現在もテロ行為を継続中のAは、前世の私にとって『いざという時は命だって賭けられるに違いない』と思っていた友人だ。そんな子から、精神的な粉塵爆発の後、絨毯爆撃を喰らうとは思わなかったよ。
『魔導大学付属高校の〈愛〉縁奇縁録』
それが、今Aが場所も考えずに熱弁しているゲームの題だ。
いわゆる乙女ゲーム――アレだ。普通とか並とか自称しつつ、客観的に見たら「美少女じゃねーか!」って見た目の女子が学校入ったり、冒険行ったりする中でイケメンにちやほやされるのだ。
このゲームは、とある高校に入学した純粋な乙女(?)の恋多き青春が始まる学園物だ。舞台は二一世紀の地球の日本に似ている。
そう、似ているだけだ。つまりローファンタジー。
タイトルで分かるだろう。
ただ普通に数学や英語を学ぶ学園物では無い。このゲームに登場する学園では、学生の半数が魔術的な不思議な力の使い方も学ぶ。
このゲームの世界観では、『魔導』すなわち魔術や陰陽術等の科学と対になる力。エルフや魔物などのファンタジー生物が現実的に存在する。
そんな生物や魔法の概念が有りながら、歴史がファンタジーの無い世界のものとほぼ同じ内容になっている辺りがネット上ではしばしば、『作り込みが甘い』だの『さては製作者は想像力が乏しいな』などと叩かれた作品だが、凄まじい画力から結構はまる女性が多かった。
そんな絵だけでコロっろはまった女性の一人であるこの友人の口を、どうにかして塞げないものだろうか……。
最後にR指定展開が解禁されるゲーム内容に、Aの口が下ネタ製造機になっている。ダメだこの女……。
しかし、哀しいかな一度実在した過去は変えられない。
というか、私は彼女の話をきちんと思い出しておかなければならない立場だと気付かされた。
生まれ変わっちゃったからだ。そんな興味の薄かったゲームの世界に。
ちなみに、彼女の死因はポメラニアンと喧嘩した末路である。あまりにも無様な死にざま過ぎた故にそれ以上は言わないでおこう。
私が転生した土筆寺帝という少女。
それは『魔導大学付属高校の〈愛〉縁奇縁録』、通称『まど愛』におけるライバルキャラの取り巻きA。複数居る取り巻き達の中で唯一、何の嫌がらせなのか、どのエンドでもライバルキャラと共に惨たらしく死亡するキャラの名だ。
ただの同姓同名だと信じたかった。
けれども、容姿がソレを許してくれない。
黒髪のセミロング。光の加減で蘇芳色にも見える凛とした黒い瞳。白いが健康的な色の肌。スレンダー系な体躯。
――モロ本人!!
もし転生先を指定した神とやらがも居るのなら、河童ヘアーになってしまえ!
なんて思っていれば、また視界が暗転した。
「ミカちゃん、ミカちゃん!」
絶賛絶望しているところで瞼を開けば、殺人未遂犯こと幼馴染が半泣きでこっちを覗きこんでいた。
「ふわぁあっ、ウッカリ足を滑らせちゃってごめんなさい~! 目が覚めて良かったですよぉ!」
「…………」
今の私は、表情こそ寝ぼけている時のソレだろう。しかし、実はとても混乱している。溢れる感情が、体の中で荒ぶっている。
――やっべぇよ。巷で盛り上がってた悪役側転生しちゃった。
「ミカちゃん? 何処か痛いんですか?」
私を見て、いつもと様子が違うことに気づいた幼馴染の少女はキョトンとしている。でもゴメン。ちょっと今気にしてあげられる余裕が無いの。
ゲームが始まるのが高校から。今日は高校の入学式三日前だから、つまり三日後から魔導大学付属高校に通う事が決定している。
「何故もっと早く思いださなかった私!」
「ひっ!」
「思い出してたら別の高校受験したのに!」
「あの……大丈夫ですか?」
「たぶん!」
運び込まれたベッドの上で、喚きながら掛け布団を頭まで被った。
死亡フラグって小説みたいに頑張れば折れるものなのかな?
「お医者さんは大丈夫って言ってましたけど、やっぱり精密検査しに行きます?」
ああでも小説とかだと、こういうのって強制力(?)とか、何とかがあってそう上手くストーリー変わらないんだっけ?
「ミカちゃん? 寝ちゃったんですか?」
とりあえずモヤモヤしながら考えてみて、私の思考が行き着いた先……私の希望。
一つしかないよそんな物!
前世は高校生の間で死んだかた、また高校生で死ぬなんて勘弁してほしい!
「ミカちゃん、ミカちゃん。ミカちゃんミカちゃんミカちゃんミカちゃんミ――」
……って、あれぇ? なんか……シーツの上をボフボフバンバンと、メチャクチャ叩いて来るアホが居る。
「止めんかうっとおしい!!」
「ぴゃんッ!!」
思いの外、強烈な蹴りが幼馴染の腹に炸裂した。
やり過ぎだと非難されそうだが、義務教育終ってるんだからやって良い事と悪い事は分っていてもらわなくては困る。
心配してくれてた事には感謝してるけどね。
続きます。
何度も修正してしまい申し訳ありません。 2017年10月1日




