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今更ながら、召喚師デビュー!  作者: 古澤深尋
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『話し合い』と言う人が一番できない件

 広い、闘技場のような、岩山の間の窪地。

 俗にバトルフィールドと呼ばれるインスタンスエリアのようだ。

 中央に居るのは巨大な九尾の狐。


「リル、まずは話し合いから」


 油断しないようにね、と呼ばれる呼びかけて中央に進む。


『…ほう、感心よの。いきなり襲いかかることはないか。』

「話し合いで済むならそれに越したことはないからね。」

『ふむ。だが、お主は勘違いをしておる。』


 尾の一本が動き、稲妻が走ってリルを打った。


「ぐ!」


 リルが崩れ落ちるのを感じ取った瞬間、私のスイッチが切り替わった。


※※※※


『これで邪魔者は動k』


 ドゴン、という破砕音。

 顔面に走る激痛。

 九尾の狐は最後まで喋ることができなかった。

 そして、『ユラ』を怒らせるのがどれほど愚かなことかをその身に叩き込まれることとなった。


 広場のあちこちに、深くえぐれたような穴が開き、壁には破壊の跡が生々しい。

 九尾の狐の口もと付近で口蓋が折れ、鼻が潰れて半分吹き飛び、目は片方が飛び出てちぎれている。

 尾は全部引き千切られ、投げ捨てられていた。

 当初の神々しさはなりを潜め、土埃と血で薄汚れ、虫の息だ。

 じゃりっと石を踏む音がした。


「よくもまあウチの娘に手を上げたわよねぇ」


 燐々と立ち上る神気。

 人を超えた、圧倒的強者。

 九尾はユラの声を聞いて死を覚悟した。

 神に近い力を与えられ、召喚師の技量を見極めるために配置されていたが、この女性は想定外だった。


「そうそう、ここでお前を放置してさっきの部屋に戻ったら、また始めからなんだって?」


 猛烈にいやな予感がする九尾の狐。

「お前も全快するそうじゃない。お仕置きはまだ終わっちゃいないし、ちょうど良い」


 まさか、またこの絶望的な状況を繰り返すつもりなのか。


「後五、六回も繰り返せば、私の気持ちも落ち着くだろうし」


 勘弁してくれっ!

 九尾の狐は身動きできない今の状況に涙した。


 二回目。

 中央で震えて待っていた九尾の狐は、ユラの気を感じただけで金縛りになり、動けなくなった。


「さ、お仕置きの続き。そう簡単に死ぬんじゃないよ?」


 ちなみに、最初の一撃を喰らった時点で意識が飛び、後はよく覚えていない。


 三回目。

 入場した気配があったため、全力で魔法や妖術を撃ちまくったが、直後に肉薄したユラの掌底が狐の鼻っ柱を撃ち抜いて意識が暗転。


 四回目。

 人化して土下座して待ち受け、呆れられつつ許してもらえた。

ドロップアイテムとして用意されていたものはアイテムボックスに入れて差し出してある。


 やっと終わった。

 そう思い、ユラを見るとまだこちらを見ている。

 腰が抜け、へたり込んだ。

 創造神オリジンから言われてはいた。

 異邦人のごく一部に、とてつもない強さを持った者がいると。

 それはステータスには表れない、本物の強さなのだと。

 だが生まれ出でてよりずっと、強敵に会うことはなかった。

 だから、慢心していた。


「あらあら。私と契約したがっている召喚獣を紹介してもらえると思っていたのだけど」


 おかしそうに笑うユラ。苦笑する戦乙女。

 その様子を見てやっと安心した。


 (許された)


 助かった、と思うと同時に自分の役割を思い出した。

 すっかり忘れていた。

 自分が受け持っている者の中で、最も相性がいい者を呼び出す。


※※※※


 九尾の狐との戦いもほぼ一方的だった。

 フルボッコにして退出、の4回目で土下座で迎えられ、リルが気の毒がって『お母様、私はもう気にしてませんから』と言い添えたこともあって、勘弁することにした。


「お母様、あまり召喚師って感じじゃなくなってませんか?」


 腰を抜かしてへたり込んだ九尾の狐(人型)を見て笑っていると、リルが苦笑して言ってきた。


「そうなの?」

「というかですね、普通女性が『鍛えてれば死にゃしねえよオラオラ!』とか言って地形が変わるほど殴ったりはしないと思います」

「え~?」

「周りの女性は皆そこがまで逞しいですか?」


 …両親の思い出は余りない。

 ただ、母が父を尻に敷いていた気はする。

 婆様は…私が小さい頃私を泣かせていた爺様を、張り手や投げ技でぶっ飛ばしてたな。


「ウチは婆様も母親もこんなものだったよ?」

「いやいやいや…」


 リルはため息をついて首を振る。

 失礼な。


「世間の女性全員がそこまで逞しいですか?」


 会社の後輩とかは腕力はないわね。

 恋愛とスイーツには逞しいけど。


「バーゲンでつかみ合いのバトルとか平気でやるけどね。逞しいわよ、皆」


 とりあえず、目の前に出てきた狐娘を何とかしないと。

 涙目で頭の狐耳をへたらせてプルプル震えている。


「はぁ…何か私が悪者みたいじゃない」

「お母様、そう思うのならもう少しお淑やかにされたほうが」


 グハッ!?

 リルの容赦ないツッコミが!

 戦乙女になってから私に厳しい!

 可愛かった妖精の面影の欠片もないんじゃ!?

 私はorzの姿勢になっていた。


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