召喚師となるために(既に別の何かにはなっている)
家の中。
私は数百の妖精に囲まれ、懐かれている。
リルは私の肩に止まって、他の妖精達を牽制している。
声は聞こえないけど、なんとなく分かる。
ふと、気配が増えたのを感じ、そちらを見る。
一人の女性。
ただし、向こう側が透けて見える。
『ギムエルを倒せるとは…すごい方』
「貴女は…」
『私は、エフェル。ずっと昔に果てた召喚師。そして、世界の危機を伝える者』
トカゲの魔王ギムエルにより、召喚獣を皆殺しにされ、自分も深傷を負って家に逃げ込み、そのまま亡くなったそうだ。
魔王に傷つけられた魂はそのままでは昇天できず、最近やっと回復したところで、ギムエルだけでなく、他の猛悪な波動を感じて警告する機会を待っていたと。
『ですが貴女は、ギムエルを打ち倒し、その子をここまで無事に連れて来た。召喚師として、全てを託すに相応しいと判断します』
「全て?」
『そうです。召喚師とは、契約だけでは足りないのです。友人のように、家族のように、恋人のように。相手を思いやり、いたわる心が大切なのです』
あー、庇って一緒に遊んでお茶して…偶然条件を満たしてたのね。
《プレイヤー『ユラ』が召喚師の制限解放に成功しました。契約数の上限が6に引き上げられました。召喚獣の能力制限が撤廃されました》
リルが輝き、光が収まる。
そこにいたのは戦乙女。
「お母様、リルは進化できました。これもお母様の愛情のおかげです。ありがとうございます」
「えっと…立派になって、まあ」
びっくりしたよ。
気が付いたら妖精が戦乙女、こんなしかも美少女。
私ポカーン(゜Д゜)
『さあ、他の子も、貴女との契約を望んでいます』
《プレイヤー『ユラ』が召喚獣との契約に臨みます》
また置いてきぼり。
足元に魔法陣が出現し、私とリルはどこかに飛ばされた。
「ちょっとくらい待ってよおおおぉぉぉ…」
私の叫び声だけが虚しく響いていた。
※※※※
薄暗い、石室。
私とリルは、飛ばされた先のその場所でやっと自分たちの状況を確認しあっていた。
「戦乙女、ね。人で言う聖騎士と似た感じ?」
「いいえ、はるかに上位のジョブです。妖精が祝福されて、使徒となることで戦乙女になります」
「すごい!リルはできる子なのね!」
「いいえ、お母様の偉業のおかげなのです。トカゲの魔王ギムエルを倒すことはできないと、神託で下されていたのですから」
ん~?
なんか、不穏な言葉が…
「あの雑魚、魔王だったの?」
リルはため息交じりに答える。
「雑魚…過去の大戦で、有力な召喚師のほとんどを殺害したのが魔王ギムエルです」
「へ、へぇ~」
脂汗がにじむ。
神託で『倒せない』と言われていた?
それを『倒した』?
(だ、大丈夫!アレよ、負けイベントの逆!勝てない言われた敵をあっさり系倒せる演出みたいな!)
知らないけど絶対そう!
またやっちまった。なんてことはないはず!
「それで、お母様のスキルとかはどうなったのですか?」
リルの問いかけをこれ幸い、悪い考えを振り払って答えた。
「それがね、ちょっと大っぴらに言えない状況みたいなのよ。」
【拳を極めし者】:現存する拳法、空手等の一定以上の技量を有する者に付与される潜在能力。ヴィルナールの世界でその能力の発現を可能にする。パッシブ化された場合、技能の発現に加えてステータスに基の能力値が加算される。
【鬼子母神】:仏法に帰依した子供の守護神を体現する潜在能力。対象を守護する際発現者の能力が完全に解放され、ステータスに加算されるとともに、攻撃・防御に神属性が付与される。対象はテイムモンスター・召喚獣。なお、鬼子母神スキルの能力加算は他のスキルによる加算に重複する。パッシブ化された場合、この効果は永続し、解除されることはない。また、効果範囲がフレンドに及ぶようになる。
「…これは他人に言えませんね」
「でしょ。リル、内緒よ」
「はい」
「その他にも…」
【万夫不当】:比類なき強敵を倒した英雄に付与される称号。戦闘に入った時に各種能力が発生上昇する。敵が多いほど、強いほど上昇値が高くなる。
【勇者】:魔王種を討伐した英雄に付与される称号。あらゆる武具と魔法への適性が発現・上昇し、複数の神々から寵愛・加護が受けられるようになる。なお、悪意をもって犯罪を犯すとこの称号は消滅し、重大なペナルティが発生する。
「うわー、お母様勇者に!さすがです!」
「いやいや…これ困るわ。私レベル1よ?」
チュートリアルの戦闘では経験値なし。
魔王倒して経験値1。
次のレベルに必要な経験値:15/16
実質初討伐が魔王。
しかもまだレベル1。
「…そろそろ、時間のようですわ、お母様」
石室の扉の向こう側から呼ばれる感覚が強くなった。
「そうね。行こうか」
契約を望む召喚獣とは何者なのか。
手に入れた聖冠ガブリエルと黒薔薇のレイピアも装備した。
私たちは扉を開ける。