目標
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ログアウトした私は、すぐに爺様の門弟の一人からメールが来ていることに気づいた。
真先氏の差し金で私が襲われたことを知っているようだ。
『そちらの件は片付けた。二度と襲われることはない』
無愛想な文面だが、この人はこれで頑張っている方だ。
『困ったことがあったら遠慮なく頼れ』
こういう気遣いはできるくせに家のことを顧みないから、嫁に逃げられる。
ありがたい話だけど。
お礼のメールを送り、雑用を済ませ、メイクして着がえる。
アリスのリアルに踏み込むことになる。
総合病院というところは大きい。
関八州大学付属病院。
最新の技術と最高の看護という触れ込みで、待たせない診察を実践しているいい病院。
だが、裏はどうなのか。
アリスの伝言にあった病棟は、完全看護の関係者以外お断りだったはずだ。
(行くだけ行ってみよう)
病棟に行くと、あっさり通された。
「お話は伺っております」
「アリスからですか?」
「…ごめんなさい、話せないんです」
困ったような顔をして返答を断った看護師。
口止めされているくらいは想定の内だ。
まずは面会だ。
「こちらになります」
特室Aと書かれた病室のドアを開ける。
ポッド型の、あれは…
「まさか…」
目の前に横たわるのはアリス。
『この姿では初めまして。真先有珠です』
40インチの大画面に表示される文章。
『先日は父がごめんなさい。ですが私たちには時間がないの』
話を聞く。
アリスもVRシンドロームだった。
深く同調し、現行ハードなどあっさり制御下におき、演算の高速化を行って、ヴィルナールサーガ・オンラインの世界を生み出した。
そこで問題が起きた。
ログアウト不能。
同調し過ぎて戻れない。
父親の真先蔵人は、自らの権限を最大限活用した。
娘の能力を自社のヴィルナールサーガ・オンラインの管理者として活用し、その見返りとして娘の完全看護を確保した。
『でも、私の体が弱り、命の危険が近づいてるの』
「私に、どうしろと?」
『レベルを上げ、錬金術を極めて欲しい』
「何故?」
『VRシンドロームの回復薬品の話は?』
「知っている」
『ユラは自分で気付いてる?貴女の体質は、唯一の成功例といっていいくらいのものなのよ』
「何となくは」
VRで自分の能力を100%発揮できる者はいない。
これは各種研究で言われているものだ。
だが、私は100%以上の力が出せている。
明らかに異常で、恩恵以外の何ものでもない。
『貴女はヴィルナールサーガ・オンラインでこちらがかけた制限や条件を無視し、あり得ない条件をクリアしたの』
「やっぱりあり得ない認定なのね」
『錬金術の条件は厳しく設定されているけど、貴女なら容易にクリアできると思う』
「アリスを連れ出すことの方が簡単な気がするけど」
『今の私のステータスに、状態異常の表示があるの。【魂の拘束】っていう、私も見たことがないもの。これを何とかしないと、ログアウトできないわ』
何か、非常に危険な気がする。
「何が必要なの?」
『理の祝福という、あらゆる状態異常を癒し、体力魔力を回復し、死者ですら蘇生する究極の霊薬よ』
「エリクサーとかは?」
『試さなかったと思う?』
「じゃあ…」
『理の祝福は、生産でしか手に入らないの。ヴィルナールサーガ・オンラインは厄介な条件が設定されていて、ゲーム内で一度もプレイヤーが手に入れていないアイテムは、管理者であっても自由に出来ないの』
「何その縛り」
『だから、貴女にお願いするしかないの。もしかしたら、ログアウトできるかもしれない。できなくても、体調は戻る。』
気がついたら、私は声を荒げていた。
「はあ?ざけんな!ダチが死ぬかもってほっとけるか!薬創って終わらせるなんてするかよ!あたしがアリスの鎖を引き千切ってやる!あきらめてんじゃねえ!生きて帰るって考えろ!」
アリスはしばらく文章を出さなかったが、やがて出てきたのは笑い声だった。
『うふふ…』
「何だよ」
『そうね、私が後ろむきじゃダメよね。分かった。ユラに任せるわ。私も必ずログアウトするから、レベルアップと錬金術はお願いね』
「任せな」
『じゃ、今日はこの辺で。ちょっと疲れたわ』
「一点だけ聞かせな。リミットはいつまでだ?」
一瞬口ごもるアリス。
『…見立てでは三ヶ月って』
「二ヶ月で何とかする。何としてでも生き延びなよ」
『うん』
それきり、アリスは沈黙した。
私は病室を出た。
アリスの命がかかったレースになってしまった。
仕事をしながらゲーム。
しかも錬金術を極めていく。
作成レシピすら分からない。
だが、やると決めた。
今は力もある。
娘達もいる。
やってやる。
もう無力さを嘆くつもりはない。
この話はフィクションです。
病院名、病名等、実在するもの、組織等とは関係ありません。




