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今更ながら、召喚師デビュー!  作者: 古澤深尋
21/24

目標

お読みいただきありがとうございます。

 ログアウトした私は、すぐに爺様の門弟の一人からメールが来ていることに気づいた。

 真先氏の差し金で私が襲われたことを知っているようだ。


『そちらの件は片付けた。二度と襲われることはない』


 無愛想な文面だが、この人はこれで頑張っている方だ。

 

『困ったことがあったら遠慮なく頼れ』


 こういう気遣いはできるくせに家のことを顧みないから、嫁に逃げられる。

 ありがたい話だけど。

 お礼のメールを送り、雑用を済ませ、メイクして着がえる。

 アリスのリアルに踏み込むことになる。

 


 総合病院というところは大きい。

 関八州大学付属病院。

 最新の技術と最高の看護という触れ込みで、待たせない診察を実践しているいい病院。

 だが、裏はどうなのか。

 アリスの伝言にあった病棟は、完全看護の関係者以外お断りだったはずだ。


(行くだけ行ってみよう)


 病棟に行くと、あっさり通された。


「お話は伺っております」

「アリスからですか?」

「…ごめんなさい、話せないんです」


 困ったような顔をして返答を断った看護師。

 口止めされているくらいは想定の内だ。

 まずは面会だ。


「こちらになります」


 特室Aと書かれた病室のドアを開ける。

 ポッド型の、あれは…


「まさか…」


 目の前に横たわるのはアリス。


『この姿では初めまして。真先有珠まさきありすです』


 40インチの大画面に表示される文章。


『先日は父がごめんなさい。ですが私たちには時間がないの』


 話を聞く。

 アリスもVRシンドロームだった。

 深く同調し、現行ハードなどあっさり制御下におき、演算の高速化を行って、ヴィルナールサーガ・オンラインの世界を生み出した。

 そこで問題が起きた。

 ログアウト不能。

 同調し過ぎて戻れない。


 父親の真先蔵人は、自らの権限を最大限活用した。

 娘の能力を自社のヴィルナールサーガ・オンラインの管理者として活用し、その見返りとして娘の完全看護を確保した。

 

『でも、私の体が弱り、命の危険が近づいてるの』

「私に、どうしろと?」

『レベルを上げ、錬金術を極めて欲しい』

「何故?」

『VRシンドロームの回復薬品の話は?』

「知っている」

『ユラは自分で気付いてる?貴女の体質は、唯一の成功例といっていいくらいのものなのよ』

「何となくは」


 VRで自分の能力を100%発揮できる者はいない。

 これは各種研究で言われているものだ。

 だが、私は100%以上の力が出せている。

 明らかに異常で、恩恵以外の何ものでもない。

 

『貴女はヴィルナールサーガ・オンラインでこちらがかけた制限や条件を無視し、あり得ない条件をクリアしたの』

「やっぱりあり得ない認定なのね」

『錬金術の条件は厳しく設定されているけど、貴女なら容易にクリアできると思う』

「アリスを連れ出すことの方が簡単な気がするけど」

『今の私のステータスに、状態異常の表示があるの。【魂の拘束】っていう、私も見たことがないもの。これを何とかしないと、ログアウトできないわ』


 何か、非常に危険な気がする。


「何が必要なの?」

『理の祝福という、あらゆる状態異常を癒し、体力魔力を回復し、死者ですら蘇生する究極の霊薬よ』

「エリクサーとかは?」

『試さなかったと思う?』

「じゃあ…」

『理の祝福は、生産でしか手に入らないの。ヴィルナールサーガ・オンラインは厄介な条件が設定されていて、ゲーム内で一度もプレイヤーが手に入れていないアイテムは、管理者であっても自由に出来ないの』

「何その縛り」

『だから、貴女にお願いするしかないの。もしかしたら、ログアウトできるかもしれない。できなくても、体調は戻る。』


 気がついたら、私は声を荒げていた。


「はあ?ざけんな!ダチが死ぬかもってほっとけるか!薬創って終わらせるなんてするかよ!あたしがアリスの鎖を引き千切ってやる!あきらめてんじゃねえ!生きて帰るって考えろ!」


 アリスはしばらく文章を出さなかったが、やがて出てきたのは笑い声だった。


『うふふ…』

「何だよ」

『そうね、私が後ろむきじゃダメよね。分かった。ユラに任せるわ。私も必ずログアウトするから、レベルアップと錬金術はお願いね』

「任せな」

『じゃ、今日はこの辺で。ちょっと疲れたわ』

「一点だけ聞かせな。リミットはいつまでだ?」


 一瞬口ごもるアリス。


『…見立てでは三ヶ月って』

「二ヶ月で何とかする。何としてでも生き延びなよ」

『うん』


 それきり、アリスは沈黙した。

 私は病室を出た。

 アリスの命がかかったレースになってしまった。

 仕事をしながらゲーム。

 しかも錬金術を極めていく。

 作成レシピすら分からない。


 だが、やると決めた。

 今は力もある。

 娘達もいる。

 やってやる。


 もう無力さを嘆くつもりはない。



この話はフィクションです。

病院名、病名等、実在するもの、組織等とは関係ありません。


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