キラッ(物理)
やっと外に。
リアルで後3時間ほど遊べる。
そろそろ、外の世界も見てみたい。
「えー、ママとのんびりしていたいなぁ。」
「お母様、リルはいつでも出撃可能です。」
反応が正反対だなぁ…
「ミミは、お外に出たくない?」
「別に~」
ちょっと意地を張っているのかな?
「ママと一緒に、お出かけしない?」
「う~」
なりは大人でも、中身はまだまだ子供ということか。
「いいよ。」
ぽそっと返事するミミ。
私はミミのあごに指をかけ、こちらを向かせて微笑む。
「無理しなくてもいいわ。高台や屋台街で遊ぶのも楽しいし。」
「…ママは、他の街に行きたいの?」
「そうね、ちょっとは興味あるわね。ミミのお洋服の素材も欲しいわね。いなり寿司よりおいしいものもあるかも知れないし。」
ミミはしばらく迷っていたが、やがて教えてくれた。
「街の外には、怖い魔物がいるもの。」
《ランダムクエスト『狩る者、狩られる者』を受理しました。プレイヤー『ユラ』にアイン郊外でのイベント戦闘が解放されます。》
あー、そういうことか。
だが娘を脅えさせる輩は許さない。
※※※※
『グハハハハ!飛んで火に入る何とやら、だな!』
《イベント進行中につきプレイヤー行動が制限さ》
『バキン!』
《え?》
動きにくかったが、捻ったら壊れたな。
これで、教育(物理)できる。
ドズン!
『ぶべっは!?』
ん?
見た目に反して軽かったな。
飛んでいってしまった。
《…》
※※※※
アインの街の門番二人は、街の外に現れた大型の魔物が空を飛ぶのを目撃した。
「なあキック?」
「何だエッジ。」
「翼のない魔物でも、空を飛べるんだな。」
「馬鹿お前あれは、ぶっ飛ばされたん…だ…?」
言いかけたセリフに戸惑い、口ごもるキック。
ぶっ飛ばす?
誰が?
※※※※
マスタールームでも頭を抱える人たちがいた。
「イベントで硬直してたんじゃないのか!?」
「また一撃討伐だよあのリアルチート!」
「アリスとは別口でプログラム見直しだ!」
イベント進行中の硬直を引き千切り、ドヤ顔で口上を宣うボスに強烈な一撃を見舞い、天高く打ち上げて一撃討伐を成し遂げた。
あり得ない事態に監視チームがパニックに陥っている。
「アリスの動向は?」
「無反応ですわ。お姫様も呆れてるんちゃいますか?」
「そんなわけない。動向も監視して。」
加苅雪はあきらめていない。
(アリスが介入しない限り、こんな事態があるわけない。)
雪はじっとモニターを見つめていた。
※※※※
周囲のギャラリーがうざったい。
インスタンスエリアではなく、フィールド扱いだったため人が集まっていた。
「さ、行こうか。」
「はい。」
「はあい。」
サーチ機能などないので素性ばれもないだろう。
「なあ、そいつらNPCだろう?どこで仲間にしたんだ?」
何かしゃべっている輩がいるな。
独り言とは、お友達がいないのだろうか?
「おい!おまえだ!」
やかましいな。
「待てこの!」
《プレイヤーに対するハラスメント行為と認めます。被害者は自衛手段を取ることが認められました。》
しつこい輩がエネミー表示の赤マークになったので。
教育的指導(物理)!
ゴシャ!
「ふに!」
ん?当たり所が悪かったかな?
変な声と共にそいつは虚空に消えた。
遥か彼方でキラッと輝いたものがあったが、まさかそこまで飛んだのか?
ギャラリーからは何の反応もない。
※※※※
美女二人を連れた超絶イケメンプレイヤーがイベントボスとハラスメントプレイヤーを天高く打ち上げて花火に変えて立ち去った後、やっと他のプレイヤーが動き出せた。
「さっきの、何なんだ?」
「NPCじゃね?」
「演出だろ」
否定の意見が多数出ていたが、それはあっさり覆された。
「あの人は君たちと同じ異邦人だよ。」
「そうそう。街から出たのは今日が初めてのはずさ。」
教えてくれた門番の様子がやや虚ろだったのはスルーされたようだ。
『Lv1職業不詳プレイヤー、Lv60暗黒騎士を一撃KO!』
停滞感が漂っていたヴィルナールサーガ・オンラインに動画とともに投下されたこの話題は、プレイヤー達の間に激震をもたらした。
Lv1でも格上に勝てる。
レベルが全てじゃない。
そして、一部のプレイヤーには別の激震が走っていた。
イケメン!
美女NPC!
謎ジョブ!
なお、この時の動画がテクノクラーツの手によって公式ホームページにアップされ、物議を醸すのはもう少し後のことである。
※※※※
星になった人は普通に死に戻りしました。
感想でご指摘を頂きましたが、運営サイドの対応が(設定の関係もありますが)冗長過ぎて、当初の私の意図と乖離し始めています。
全体を見直して、大幅改稿するかもしれません。