お酒の席の社蓄は上下饒舌にする
鶴見豊です。
社蓄をやっています。
ずーっと、ずーっと、仕事をしているわけですが、この日はプロジェクトの打ち上げというわけで、会社の皆様と飲み会に行きました。日ごろの不満を言い合って、スカッとする場でもありますが、アニメを観る時間を削られて、辛くもあります。
?睡眠時間は?嫌ですねぇ、睡眠なんて4時間で済ませるのが、社蓄のマナーですよ。健康管理に割ける時間は短時間かつ完璧にこなすのが、常識です。
日曜日ぐっすり寝ろって事です、日曜日も出勤ありますけどね。
「乾杯ー!」
カツゥン
ともかく、始まりました。私達の飲み会。
白い飯、枝豆、お刺身、てんぷら、揚げ物、ビール、……うひゃーな、時間です。
「かーっ!仕事終わりのビールは最高だ!」
「染みますね~」
「旨いもん食うのも、サイコー!コンビニの弁当ってクソだわ!」
食って、飲んで、騒いでの、飲み会である。普段抑えている感情を酒と飯が解き放つ。ストレスの解放はなんとも言えぬ、快感。
「無事に終わって本当に良かったですよ」
ジョッキを軽く飲み干してから、日本酒へと切り替えたのは私の意中の人、弓長晶さんである。憧れも含めて、異性への興味もあるので。
「日本酒が好きなんですね。弓長さん」
「まー、これがオフの私の楽しみですから」
そんな人と自然な感じで隣同士になれたんだ。やっぱり、会社の席だけど。この後、続きたいなぁ。アニメは録画してるし、別に明日。出勤するのも平気。大丈夫よ!遅くなっても、朝まで行っても……
「~~……」
「どうしました?もうお酒で参っちゃってるんですか?」
「いえ!大丈夫です!」
お酒を飲んで、今考えた事を忘れよう。うん!
そんなのはまだ先だし。弓長さんに好きな人がいたらね。とはいえ、彼女がいない事は教えてくれた以上、焦って嫌われちゃダメ。
ゴクゴクゴク
冷静によ。鶴見豊!
誘うだけ。
『私ともう一軒、飲みに行きませんか?』
って、それだけで良いの!
「まったく、もうちょっと金をぶんどっても良かったですよね~」
「だよな。弓長!交渉してくれー!」
「あとあの馬鹿をだなー」
わいわいと会社内のトークで盛り上がる一行。
当然ながら、弓長さんもその輪に入って、社員のストレスを発散させるように不満をこの場で吐かせる。どこまでこの人は社蓄の鏡なんでしょうか。
お酒を飲みペースも早くて、多いのだから、なおさら凄い。
「むーっ……」
そんな私はあんまり会話に混ざれない。食べたり、飲んだりで、弓長さんの隙を伺っている。
せっかく隣に座ってくれているのに、まるで、高校時代の授業風景のような、見えない仕切りがあるようだ。
気まずいなぁ。
そう思い、お酒を飲む。その雰囲気をぶち壊せる酔った私を呼び起こせ。
「うーっ……」
チャンスはある。……ある……
「Zzz……」
◇ ◇
気が付いた時、おんぶされている状態であった。
誰におんぶされてるのか?髪が当たっている。でも、男の人かな。温かいなぁ。
「んっ……」
「おや、気が付きましたか?」
「……弓長さん……」
……?弓長さん。弓長さん!?
「はわわわわわ!」
何も話していないのに、なんでかこんな急展開になってるんですけど!?いつ、飲み会が終わって、ここどこ!?何が起こっているの!?
お酒よ!私が何をしたか、記憶をカムバックさせて頂戴!
「鶴見さん。お酒が強くないならほどほどにした方がいいですよ」
「えっ、えっ!?」
「飲み会は終わりましたよ。眠っていた鶴見さんを介抱してあげているんです。公園のベンチまでいいですか?」
タクシーでも拾おうと、駅まで向かっている途中の道。公園を見つけて、ベンチに私を座らせるまでしてくれる。恥ずかしかったけど、なんでか。動けないことにして欲しくて、そうしてもらった。
「ふぅ」
「お、お、重かったですよね。ごめんなさい」
「いえいえ。別に」
弓長さんも疲れたのか。ちょっと、隙間を空けているけど、隣に座って空を見上げた。
「やっぱり日本酒は5本くらいが適量ですね」
「酒豪ですよね。何本空けたんです?」
「12升。いや、鶴見さんが寝ている間に飲み比べやりましてね。意地になっちゃったもんです」
日本酒の瓶を12本って、どんだけ飲んでいるんですか。
しかも、全然顔が赤くなってないし。私はこうしているだけでも、緊張して、赤みが拭えないのに。
「酔ってませんか?」
「い、いえ。弓長さんの方こそ……」
い、いや!落ち着いてねぇな、私!
なんで会話を切ろうとする。こうして、真夜中の公園で2人きりでいられるなんて、絶対にないよ。
「あ、でも、酔ってないですか?」
「うん」
今が何時か分からないけど、でも。飲むことや、2人でいることに、カンケーないよね。
ね?
「こ、これから……」
ちょっと、小声になってる。アルコールが抜けちゃって、緊張が高まっていくよ。
心臓がビクビクするし、胃がキリキリする。心が不安を掴んでいて、
「その……私……」
言うの!言うの!
どれだけ、言葉詰まらせているの。身体よ、心よ。今、私がしたいこと。やらなければいけない事を、声に。弓長さんに伝えるのよ!お誘い!お……
「お、お……」
「?」
緊張と不安、身体の異常事態が。声となったものは……
「おもらししそうで……」
正直な身体の気持ちが、声になってしまった。顔をマグマみたいに、赤面させて言ってしまった。もうダメ。
「そこにトイレあるよ」
「は、はい……」
私の気持ちってこんなものだったのかな。ううん。これは、告白ができない勇気のなさ。臆病だから。
「私の馬鹿ぁぁっ……」
トイレでめっちゃ泣いた。涙も出てしまった。落ち着けそうにないけど、すっごく泣いた。身体の中にある液体を一番出したと、思っている。
「長いですねぇ」
弓長さんはコンビニでカップ酒を買って、飲んで私を待っていてくれた。
ホントにごめんなさい。