依頼人登場?
「今度は神に祈り始めたわ。末期ね」
「どうしてお客、来ないのかなあ。パルム、良い腕していると思うのにね。性格に問題があるのかしら」
「お前たち、頼むから少し黙っていてくれ」
フェアリーズは顔を見合わせて「甲斐性なしに怒られちゃった」と笑った。
――客。客さえ来てくれれば。
どうして客が来ないのか、その理由ははっきりしていた。
まず立地条件が悪い。
【エルムナード大通り】から一本裏に入った路地裏。
その一角にパルム設計事務所はあるのだが、まず、人の往来が殆どない。
エルムナード大通りはソルティオの中心部を南北に真っ直ぐ伸びる表通り(メインロード)――人々の往来も激しく、自然と居を構える店々も立派なものが多い。
大抵の魔法建築士はここに集まってくる――露天商も多く見られ、毎日活気に満ちあふれている。
それに比べて東に一本這入った場所はじめじめと陰鬱な雰囲気が漂う。
道幅も狭いので露天商も店を出さない。
自然、人も集まってこない。
だからなのか、裏通り(サブロード)は通称【サブウェイ】と云われていた。
わけあってパルムは表通りには顔を出しにくい。
表に提げた鉄製の看板もひっそりと目立たない程に小さい。
フェアリーズもその辺りの事情は把握しているので、暇なパルム設計事務所でも文句も云わずに居候を続けている。理由は他にもあるのだが。
只、こうまで客が来ないとなると打開策を考えないといけない。じゃないと、ここを追い出されては行く場所が無くなってしまう。
「呼び込みでも、否......勧誘か、否否......ビラ配り、否否否......」
パルムが目を閉じて腕を組んでいると、アリが肩を叩いた。
「パルム。ねえパルムってば」
「パルムさん。起きて下さい」
「何だよ。俺は今、人生について考えているんだ。邪魔しないでくれ」
「......仕事のことじゃないんだ。――それよりほら、変なのが居るよ」
「ん?」
目を開けてアリとマリが指す方を見る。
窓硝子に両手を貼り付け、中の様子を窺っている少女と目が合った。翡翠色の瞳と、金髪を綺麗に分けた七三の髪型が印象的な少女だった。
しかし彼女はパルムのことを一瞥しただけで再び視線をきょろきょろと動かし、しきりに事務所の中を見渡している。
「マリ。幼女が居るよ。どうする? 選択肢? 選択肢を出すべき?」
「一、話かける。二、頭を撫でる。三、お菓子をあげる。四、裸にする。さあ、パルムさん、好きなのを選んで下さい」
「三と四の間に何があったかは聞かないでおくとして......現実的には一しか有り得ない訳だが、ここで例えば四とか選ぶとどうなるんだ?」