プロローグ
零章
「暇だねえ、アリ」
「暇だねえ、マリ」
妖精たち――フェアリーズはお互いの顔を見合わせて囁いた。
木製の洋卓に小さな身体を突っ伏し、半透明の翼を力無く揺らし、床に着かない両足を前後に動かしながら、二人は再び「暇だねえ」と声を合わせて言った。
二人は訪れる(であろう)客をひたすら待ちわびる日々にそろそろ飽きてきていた。
「前にお客が来たのは何時だった? アリ」
「そうねえ......」
一つ二つ三つと指を折って数えていくアリ――その背中を流れる蒼い髪は身体全体をすっぽりと覆う程に長く広がっている。
彼女は丁度十本の指を折り終えて、
「十日前だよマリ。新記録樹立だね。いえーい」
「やったね。いえーい」
と――金髪をポニーテールにしたマリと二人、力無く手を合わせた。
このやりとりも、始めてから既に五日が経過している。
フェアリーズ。
彼女たちはここ、パルム建築事務所で助手のような、手伝いのような、受付のような、つまりは雑用係をしていた。
「何かすることないかな、アリ」
「掃除は朝やっちゃったし、洗濯は昨日したし、何もないね、マリ。あはは。私たちって完璧」
「アリ、そんなこと......あるよね。あはは」
二人は力無く笑った。
これも最早日課になりつつあった。
「......お前たち、そんなに楽しい――痛っ」
奥の扉から背の高い――天井に頭をぶつけそうな程だ――青年が姿を現した。
案の定、青年は天井の梁に額をぶつけてしゃがみ込んだ。
額に手を当て、撫でて痛みを消そうとしている。
アリとマリが振り返り、彼の名前を呼んだ。
「あ、パルムじゃん。もうお昼だよ」とアリ。
「パルムさん、少しお寝坊が過ぎますよ」とマリ。
パルムのことを呼び捨てにするのがアリ――脳天気で気分屋で我が儘。
さん付けの呼ぶのがマリ――気分屋で我が儘なのはアリと同じ。
但し少しだけ説教臭い。
パルムと云われた青年は目に涙を浮かべながら立ち上がると、改めて言い直した。
「お前たち、貧しいのが、そんなに楽しいか?」
初なので手探りでやっていこうと思います。
書き溜めた分は少ないのでぼちぼちと。
とにかく一話一話完結させることを目標として楽しめれば。
なのでゆっくりお付き合いください。