ゾウさんとアリさん
「ほーら、いったぞー」
「ワーイ!今度はボクの番だ」
「こっち、こっち」
森の広場には、今日も元気一杯の声がひびいていましす。
ゾウさんにウサギさん、タヌキさん、そしておサルさん。
森の仲良したちが集まって、ボール投げをやっています。
ゾウさんは、長い鼻にじょうずにボールをまきつけ、
ポーン!
遠くへほうり投げます。
ピョン、ピョン。
ウサギさんは、高く飛びはねながら、まっさきにボールに追いつくと、
パーン!
まっ白な長い耳で、はじき返します。
「よーし、きた。それー!」
今度は、タヌキさん。
自慢のおなかで、ボールをはね飛ばします。
「まかせとけ!」
おサルさんは、
パシーン!
長く細いしっぽで、クルクルッと器用にボールをキャッチ。
「わあ〜、じょうずだなあ〜」
みんな、本当に楽しそうです。
と、そこへ・・・。
ゾロゾロゾロー。
地面に、細く黒い一本の線があらわれました。
「ねえ、ボクたちも仲間に入れてよ」
黒い線から声がします。
みんなは驚いて地面を見つめます。
そこにいるのは・・・。
アリさんたちです。
「ボクたちも、みんなと一緒にボール投げをやりたいんだ」
アリさんたちは、いっせいに頭を上げて、みんなに向かって言いました。
「だめだ、だめだ。絶対に、だめだ!」
ゾウさんがいきなり、大きな声で頭と鼻をはげしくふって言いました。
「ど、どうして?」
アリさんたちは、びっくりして聞きかえします。
「どうしてって、そんなことはわかっているだろう」
ドンッ!
ゾウさんが、一歩、前足をふみだしました。
ピョーン!
アリさんたちは、ゾウさんがちょっと動いただけで、地面から飛び上がってしまいました。
「ほら、そんなに軽くて、小さくて、力もないお前たちに何ができる。ボールを投げるどころか、飛んできたボールにつぶされてしまうぞ」
ゾウさんは、アリさんたちをにらみつけます。
「それにな、お前たちみたいに小さいのがウロチョロすると、かえってじゃまなんだよ。まちがって、ふみつぶしてしまいそうだからな。せっかくみんなで楽しく遊んでいるのに・・・。とにかく、一緒には遊べない。ほら、帰った、帰った」
アリさんたちは、悲しそうにうつむいてしまいました。
ウサギさん、タヌキさん、おサルさんは、アリさんたちがかわいそうになりました。できれば、一緒に遊んであげたいとも思いました。
でも、大きくて強いゾウさんに、さからうわけにはいきません。
アリさんたちは、また一本の線になっておうちへ帰っていきました。
そして、次の日。
「たいへんだあー!」
「ゾウさん、だいじょうぶ!」
ウサギさん、タヌキさん、おサルさんがゾウさんのまわりに集まって大さわぎしています。
ゾウさんは、地面にすわりこんで目を白黒。
いったい、どうしたのでしょう?
おやっ? ゾウさんの鼻の穴・・・。
そうです。長い鼻の先にある二つの穴、その穴に、リンゴが一個ずつ、すっぽりとはまりこんでいます。
ゾウさんは、鼻がふさがってしまい、口でハアハア、ゼイゼイ、苦しそうに息をしています。
顔も、だんだんまっ赤になってきました。
「どうしよう・・・」
「みんなで、なんとかリンゴを引っぱり出すんだ」
ウサギさん、タヌキさん、おサルさんがなんとかリンゴを取り出そうと鼻の穴をのぞきこみます。
でも、リンゴはぴったりくっついてしまったようにはまりこみ、まったくすきまはありません。
ドンドン、ドンドン!
みんなは、ゾウさんの鼻をたたき出しました。
「いたい!いたいよ。やめてくれ!」
ゾウさんの目から涙がこぼれます。
みんなはびっくりして、たたくのをやめました。
ゾウさんの顔は、本当にまっ赤。いえ、顔だけではありません。
耳も、前足も・・・、あっという間に、体中がまっ赤になってしまいました。
「ゾウさんが、ばくはつしちゃう!」
みんなが叫びます。
「どうしたの?」
地面に一本の黒い線ー。
アリさんたちです。
「ゾウさんが・・・、ゾウさんが、たいへんなの」
ウサギさんの声は、半分、泣き声になっています。
「みんなで、リンゴをとっていたんだ。ゾウさんは鼻でリンゴをとっていたんだけれど、ゾウさんの鼻にリンゴがはいりこんじゃったんだ」
タヌキさんは、オロオロ。
「ボクたちじゃ、どうしようもないよ・・・」
おサルさんも、こまりはてています。
「いたいよお〜。苦しいよお〜」
ゾウさんの目からは、涙がぽろぽろこぼれています。
「よーし、ボクたちにまかせて」
アリさんたちが、力強く言いました。
ゾロゾロ、ゾロゾロ・・・。
アリさんたちは、一直線になったまま、リンゴがはまりこんだゾウさんの鼻に向かって進んで行きます。
みんなは、何が始まるのかと、まばたきひとつしないでアリさんたちを見つめます。
アリさんたちは、ゾウさんの鼻の前にくると、ふたてに分かれました。
そしてー。
ゾロゾロ、ゾロゾロ・・・。
ゾウさんの鼻の穴の中へ入っていきます。
そうです。
みんなには、ゾウさんの鼻の穴にすきまがまったくなくリンゴがはいりこんでいるように見えましたが、小さなアリさんたちが通れるくらいのすきまはあったのです。
アリさんたちは、みんな、穴の中へはってしまいました。
「よーし、みんな、はいったなあ〜」
ゾウさんの鼻の中で、先頭に立ってはいっていったアリさんが、大きな声で叫びました。
「それじゃ、いくぞー! いち、にい、の、さんっ!」
アリさんたちは、お尻をあげて、いっせいに後ろ足でゾウさんの鼻の穴の中をくすぐり始めました。
「ハッ、ハッ、ハックショーン!」
ゾウさんが、大きな、大きな、くしゃみをしました。
と、同時に、
スコーン!
鼻の穴をふさいでいた二個のリンゴが、いきおいよく飛び出してきました。
そしてー。
スコーン!
アリさんたちも、リンゴのあとから飛び出してきました。
「ゾウさん!」
ウサギさん、タヌキさん、おサルさんがゾウさんにかけよります。
「だいじょうぶ?」
まっ赤だったゾウさんの体が、だんだん、もとにもどってきました。
「ハアー」
ゾウさんが、大きな息をします。そしてー。
ゆっくりと、やさしく、アリさんたちに近づきました。
「アリさん、ありがとう。君たちはボクの命の恩人だよ。本当にありがとう」
ゾウさんは、アリさんたちにお礼を言いました。
「そーれ、いったぞー」
「ワーイ、こっち、こっち」
森の広場では、みんながボール投げをしています。
ゾウさん、ウサギさん、タヌキさん、おサルさん・・・、そして、アリさんたちも一緒です。
「アリさん、いくぞー」
ゾウさんが、ボールをアリさんたちに向かって投げました。
アリさんたちは、前のアリさんのお尻に次のアリさんがかみついて、鎖のようにつながっています。
「よーし、それー!」
アリさんたちは、みんないっせいに飛び上がると、
パシッ!
ボールに鎖のようになった体をまきつけます。
それから、そのまま、
「エーイ!」
足でボールをはじき飛ばします。
「ワー!スゴーイ!」
強くはじき飛ばされたボールは、誰にもとることはできません。
「アリさんたちは、スゴイなあ」
みんな、ニコニコ。
森の広場は、今日も元気一杯です。