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夏休みの記憶  作者: 京忘
2/2

PM6:00~ 百物語開催

今回は(物語内での経過時間が)長めにつき、サブタイの時間表記が曖昧です。


※物語内の百物語についての解説やそれに類する話は作者(京忘)個人の解釈を多分に含んでいることを、ご了承いただけますようおよろしくお願いいたします。

空が赤く染まる頃。カラスの啼き声をBGMに、子供達は準備を進めている。

「はぁ・・・めぐみちゃん・・・・・・」

「まぁそう落ち込むなって・・・」

「きっと次があるよ」

ひかるの落ち込み様に前者は苦い笑みを浮かべながら、後者は棒読み口調で慰めた。

「・・・・・・というか、百物語に準備なんてあるんだね!」

兄のあまりな落ち込み様(十原因の反省の無さ)に耐えられなくなった真白は、健気にもわざとらしい明るい声で、話を変換した。

「まぁ、ね。蝋燭を百本集めるのが決まりだったりするのは良く聞くでしょ?その他にも多少ある訳」

昼から幾度となく繰り返していた仲裁で疲れ切った顔をしているいーは、真白の質問にこれ幸いと答える。

現在、離れのとある部屋。四隅に座布団が敷かれ、彼らが座ることを示す。蝋燭は四本、燭台に立てられ用意されている。

「おっほん、ではこれよりー夕飯前に簡単に、『いー先生の百物語質問コーナー』を開催するー」

みんな拍手ー、とあおられてノリのいい男二人を筆頭に、拍手とライトな野次が飛ぶ。観客の反応に気をよくした少年は先ほどまでの倦怠感は何処へやら、朗々とした声で語り始めた。

「百物語といえば蝋燭だが、なんで蝋燭がいるのか、知ってるか?」

一同の首が左右に振られるのを見た後、座敷の片隅に用意された道具を彼は指差す。

「蝋燭と水を入れた平皿、要は水鏡な。使うものはそれだ。水鏡を部屋の中央に置いて蝋燭の灯った燭台と共に、全員四隅に座る。すると、結界が張られるわけ」

「は?」

唖然とする友人達にニコリともせず、寺の跡取り孫は説明を続ける。

「たとえば家の表札は、一種の結界とされている。だから、霊的なもので不適切な奴は、雑魚程度なら近付けない。悪しきものを封じた或いは強すぎる力を持つ御神木は、清められた注連縄をまわす。そうやって異なるものを呼ばないために、人は境界を用意する・・・。つまりだなあ諸君。説明通りに準備をすればこの部屋を異質なモノから隔離するため境界が張られ、魑魅魍魎は近づけなくなる。全ての蝋燭を吹き消してしまうまではね。百物語みたいに不吉、負の感情を抱えた物語を抱えた話は、不可思議なモノ達を呼び出す。引きつける。そういう時ためにこういう雰囲気ある道具はあるわけ。水鏡は異界との入口とされるし蝋燭は人の魂に例えられる、どちらも異なるものとなじみ深い存在だ。無意味に存在する訳じゃないんだ」

「ちみもうりょうって、何?」

「妖怪とか幽霊とか、そういった類の奴等だよ」

「さっすが神社の跡継ぎ孫息子!詳しいなぁ」

朗らかに笑うひかるに、入亜も苦笑いで返す。

「そらどーも。さ、さっさと夕飯食ってやろうぜ!」

そして四人は長い廊下を走り、夕餉の支度をはじめた。


四人がそれぞれの座布団に座ったのは、宵の口ー午後十一時。とはいえ小学生が起きていて良い時間ではない。そういう意味でも、厳しい保護者ー入亜の祖父がいないのは、まさに僥倖と言って良いだろう。

「じゃ、火を灯しな」

電気を消し、四つの小さな火に照らされる四人の表情は、悪戯を成功させた子どもの顔、そのもの。

「何か俄然、わくわくしてきたね」

ニコニコと笑みながら真白は、

「じゃあ、お兄ちゃんから」

「はいよー」

話を振られた兄は、ニヤリと口許を更に歪め、

何にしろ、三途の川を渡りかけたひかるがまず、蝋燭を吹き消す。

「・・・じゃ、次は太一で」

自然と視線が収束する中、むしろその緊張感が心地よいとばかりに少年は唇を歪める。

「おっし!任せろ、ひかるとは違って飛び切りハードでヒートでデストロイな話を持って来たんだ!」

「たいちゃん、デストロイはちょっと違う・・・」

「ま、細かいことはさておきだ。

ぼくの話はネットで調べたんだけど。ある古い駅の話だよ」

その駅は戦前からあったんだけど、つい十年くらい前に廃線になってもう動いてないらしい。けど、使われなくなってからもメンテや修繕は欠かさず行われている。

普通要らない線路ならさっさと廃棄するだろ?ところが、できないんだ。

駅が作られたのは、戦前って言ったじゃん?当たり前だけど、その頃は今より工場の方法も発達してないし、地盤も悪かったみたいでさ。

事故での人死にを恐れるあまり、人柱、なんて、馬鹿なことしたみたいなんだよね。

選ばれたのが、その近辺にあった村の子。身体が弱くて、どっちにしろ長生き出来ないって言われてたらしいんだ。人柱のおかげか、駅が倒壊することも無かった。戦中も問題無く動いていた例外の一駅だったくらいさ。

けれど、戦争が終わって、日本が負けて。大きな改革が時代の流れとして起こった。その中で、その駅も壊されることになったんだ。「人柱などという、古臭く愚かな因習を断ち切る見せしめ」として。けど、駅は壊されなかった。いや、違う。壊せなかったんだ。まるで、人柱となった少女が憑き、守っているかの様に。

工事関係者を襲う怪奇現象には、必ず¨少女の幽霊¨が関係していた。祟りだ、と囁かれた。身勝手で人柱にされた上にそれを因習と嘯く、俺ら人間への。

―――だからその駅は、今も丁重に祭られ、壊されることもないんだと」

「・・・明日は雨だ」

長い沈黙の後にさらっと断言する、いー。

「って、何でいきなり天気予報!?」

ひかるの渾身の突っ込みに、

「だって、太一が真面目な話してら」

「ひでーな・・・いーがさり気なく黒い・・・」

いじけながら、蝋燭を吹き消す太一。

「で、次はいーか」

「よ!待ってました!!」

親友二人の囃にも答えず、彼の話は始まる。

「俺のやつは、太一の話と根底は同じらしい。じいさんから聞いたんだがな・・・

ある村に住んでいた少女は、身体が弱かった。おまけに、感染する病に掛かってからは、誰とも顔を合わせず、奥座敷で一人孤独に暮らしていた。幼かった彼女は、それでも察していた。自分は長く生きられないことを。

彼女の暮らす村は、貧困だった。大した名産も無い、財力も人手も欠落した、風前の灯火と囁かれる存在。おまけに安定しない天候。その影響で、農作すら上手くいかないでいた。少女は思った。比較的自分の家が裕福とはいえ、食いぶちどころか、薬代や医者に金を掛けさせてしまっている。これ以上、治りもしない自分に金を掛けさせたくない。家族がやつれる所なんて、見たくない。村のひとたちも凶作で苦しんでいる。たとえば自分が、死んだとして。その分のお金を使えば多少は、小さな村の少ない人口をこれ以上減らさせないための足しに、ならないだろうか。

悩んだ末に彼女は、村外れの崖から身を投げた。彼女の家族は、彼女の部屋に書き置かれた遺志に従い、家の財産をありがたく村の為に使った。

それからその村は繁栄した。少女の家の商売が村の外で繁盛し村の経済を潤わせ、た為だ。少女が飛び降りた崖には、札が立てられた。「繁栄の礎、ここに眠る」と。戦後、土地開発で村が更地にされることになった。人々は追い出され、名家はことごとく潰され、吸収された。しかし、彼女の生家だけは生き残った。吸収合併しようとした家の者達や工事関係者は、ことごとく原因不明の怪奇現象に襲われた。曰く、「着物の少女が現れては、¨赦さない¨と言う」曰く、「部屋の電気が不意に砕け、背後に現われた人影が家の者を傷つけた」曰く、「工事の機材が勝手に動き、怪我人が複数出た」。

¨少女の遺志に沿わなかった祟り¨と結論付けられたそれは、地鎮祭に加え、吸収合併と村の更地計画は中止。その後その村は範囲を広げ、今も平凡な田舎町として残っている。そして、少女の飛び降りた崖の近くに神社を造り、怒りを鎮める様待機してる」

「・・・たしかに、俺のと似てるな」

太一の呟きに、ひかるも首肯する。

「そのせいかあんま怖くなかったわ!」

と嘘か真か空笑いをする友人たちに人差し指を立てながら首を振る。

「チッチッチ・・・太一くんにひかるくん、一つ君たちに問おうか。今の話の村、現在はどうなってると思う?」

「え?そりゃ、どっかで繁栄してんだろ、今お前がそう言った―――――」

「・・・っ!?まさ、か」

戦慄する少年らに、入亜は不敵に笑う。

「そう、この田舎町だよ。俺らが住む町」

びしり、と空気が凍りつく。

「ついでに少女が飛び降りたっつー崖は俺んちの裏手にある。もしかしたらその少女の霊が引き寄せられて、ここに現れたりするかもな」

「―――こええええええ」

響く悲鳴にけたけたと笑いながら、三本目の蝋燭が吹き消された。

「じゃあ最後は真白ちゃ・・・・・・あれ?」

「あ」

「ふぇ?」

少女は壁に寄り掛かり、いつの間にか夢の中。

「あちゃー・・・小一にはキツかったか」

「どおりで途中から、コメント消えてたのね」

「しかし可愛らしい寝顔…起こすのが忍びないな・・・」

しかし思い出すべきは、今は百物語中だということだ。

「っやべ!真白ちゃんにもやって貰わないと、俺ら部屋から出られない・・・」

「え!?」

マジ?と当惑するひかる。思わず襖を開けようと試みるが、当然開けることは叶わない。

「う゛~!!こっちも開かないよ!?」

同じく太一。

「ったり前だろ!?おーい真白ちゃん、早く起きてくれ・・・」

たしたしと頬を叩き肩を揺するが、少女熟睡。

「・・・真白、寝起きはいいんやけど、一回寝ると、決めた時間まで絶対起きへんからなぁ・・・・・・」

兄に告げられる最後通告(?)。

「っ起きてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

太一と入亜、心からの叫び。

障子があかないという超常現象と百物語という異質な空気、幼い少年らがそれらによって受ける精神的負荷は大きい。そのためか『蝋燭を吹き消せば結界は消える』という予想も浮かばない。


と、彼らにとって救いの奇跡が起きた。

「・・・・・・ん」

目を擦りながら、真白が身体を起こす。

「んー・・・うるさいなぁ」

少女は欠伸混じりながらも、間違いなく覚醒に至った。

「よっしゃあああああ!!」

「助かったぁぁぁぁぁ!」

「珍しい・・・」

三者三様の反応ながらも快哉が上がる。その中で原因(元凶)の少女は・・・

「・・・はれ?ちーちゃんは?」

首を可愛らしく傾げる真白。その発言にか、釣られて三人も傾ける。

「・・・¨ちーちゃん¨って、誰や?」

兄の突っ込みに、無邪気な笑顔で答えた。

「ちーちゃんは、ずっと昔に死んじゃった子だよ」

青ざめる少年らをよそに、言葉は紡がれる。

「んとね、ぼんやり聞こえてたんだけど、たいちゃんやいっくんの話に出た女の子のことっぽい」

三人の青ざめ度数は測定不能領域。

「・・・・・・・・・・・・真白、それはお前の用意した、百物語の怖い話だよな?」

「ん~?そじゃなくて、昨日の夜にね、夢の中でね、水の中みたいなところで、ちーちゃんに会ったの。ちーちゃんは、ずっと前に死んじゃって、その前も病気だったし、ろくに遊んだこともなかったんだって。それが¨思い残した事¨になって、じょーぶつ出来ないんだって。ちーちゃんがいるところは水の中で、蓮の花が綺麗なの!でもね…寂しいの」ちーちゃんの¨悲しい¨が、いっぱいだから。

黒髪を無造作に垂らし、足を崩して語る少女。その様は、いつも見慣れた姿。六歳の子供らしい舌足らずさ、幼げで適度に可愛い幼馴染み。









昼間、町中で出会った時の妖艶さとは、程遠い。

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