#004-2 ヒミツの追跡
「よぉぉぉし。それじゃあ、行こうか」
今まで隣に座っていた友達の女子武道王者、カイナが急に立ち上がった。フワリとスカートの裾が捲れ、隣にいた僕の眼前にムッチリとした太ももが晒されていた。距離にして2センチぐらい先にまで生足が近寄ってきたのである。
顔を赤らめた僕は、ゴクリと唾を飲み込みつつ尋ねていた。
「い、行くって、どこに?」
「そんなの本人の所に決まってるだろ」
「……本人って、火蜜さんの事?」
「そうだよ。君だって、あのクソヤローが、どうして森の奥なんて場所に一人で行ったのか気になるだろ。普通に考えれば、用事なんて無い所だろうし。どんな秘密があるのか気になるだろ」
「……確かにね」
僕は頷いた。
どうして、森の奥なんて所にヒトの指が落ちていたのか。どうして、それを火蜜さんは見つけることができたのか。どうして、それが消えてしまったのか。
全てを偶然とするには、不気味な事が続きすぎているような気がしていた。少なくても、何かしらの関係性があるように僕は思えて仕方なかった。
「だから、後は本人から直接にでも聞くしかないだろ。アタシも手伝ってやるからさ」
僕が暫し押し黙っていたら、そうカイナが言い出したのである。
「え、でも……」
「良いんだよ。友達が困ってるんだから、汚名を挽回させるぐらい手伝うって」
「……汚名を返上じゃ」
「うるせなっ! 汚名を突き返すって意味だろっ! 話の腰を折るなよ」
「……あ、はい」
「それに、普段は優等生を気取ってる癖に、いざ友達が困ってるのに何もしないなんて最悪じゃん。ほら、君が悪口言われている時だって、火蜜はムシしてたろ。あれ、あのクソヤローの立場なら、君を助けることができたんだと思うんだよね」
「……それは」
「クラスメートの友達を助けられるけど、やらない、っていうのはサイテーじゃん」
「……んー。って、うわっ!」
「ほら、いいから行くよっ!」
僕が反応に渋っていたら、カイナが手を掴んだまま屋上を飛び出した。空手部エースの腕力に逆らえるハズもなく、ただ強引に階段を駆け下りたのである。
「あ、危ないよっ! それに、もう帰ってるかもしれないだろ」
「そんなの探してみなきゃ分からないさ。探してみたら、南に沈む太陽だってあるかもしれないだろ」
「ないよっ!」
「いいや、アタシ達なら見つけられるねっ!」
と、言ってカイナは、ガラッと教室のドアを開けた。
―――そこで僕は息をのむ。
赤い斜陽が突き刺さる教室の中で、自分の席に座ったまま外を眺める人影があった。黒くて艶やかな黒髪が夕日の紅色に食されており、窓から入り込むそよ風でサラサラと流れるように舞っている。その輝く瞳は赤く濡れ、憂いでいるようにも見えていた。
本当に火蜜さんは残っていたのかと、僕は驚くしかなかった。
「な、アタシの言った通りだったろ。とっとと、本人からユビの話しを聞こうぜ」
カイナは爽やかに笑った。
でも、それは本人が思っていたよりも大きな声だったので、一人で座っていた火蜜さんの耳にも届いていた。ハッとして振り向き、僕と白く透き通った視線が合ったのである。そして、ツツーっと火蜜さんの瞳から涙があふれ出したのだ。
「あ……」
「……バカ」
火蜜さんは呟くと、なぜか教室の反対の出口から急に飛び出していた。僕は小さく丸めた彼女の背中を、ジッと眺める事しかできなかった。子供のように弱々しく泣いている火蜜さんの姿を見ただけで、なぜか胸の奥がギュッと締め付けられていたのだった。