#004-1 ヒミツの追跡
「……ふぅん、ヒトの指ね」
放課後の屋上。
爽やかな笑みを浮かべ、友達のカイナは呟いていた。
ショートヘアーに健康的に焼けた肌、猫みたいに少し鋭い瞳、スポーツ系女子というのを地で行くという感じである。緑色のフェンスを越えて冷たい風が顔にあたるも、カイナは気にした様子が全くなかった。むしろ、厳しい寒さは心地よい、そういう透き通った表情をしていたのだった。
いま僕は、全ての経緯を説明した。
森の中でクラスメートの火蜜さんがヒトの指を見つけたことも。それが、忽然と消えたことも……。
しかし、それでもカイナは何の反応も示さなかった。普通、ヒトの指を見たなんて話しを聞いたら、他のクラスメートのように大抵は白い目を向けてくるだろう。現に親や警察だって僕の言葉を信じてはくれなかったのだ。
カイナは再びポツリと呟いた。
「ヒトの指か」
「うん」
「指ねぇ」
「……うん。って、何回繰り返すのさ。それとも、僕の話しを聞いてないの?」
「あはは。チョー聞いてるって。もうさ、朝の目覚まし時計ぐらいにビンビンよ」
「……それウソだよね。朝の目覚まし時計なんて無視され率高いよね。明らかに遅刻するレベルで聞き流してるよねっ!」
「まあね」
「認めちゃったよッ!」
「だって、アタシは他人の指よりも、君の艶やかな腕の方が好きなんだもんさぁ」
そう言うと、カイナは僕の腕だけに抱きついてきたのだ。薄いリップの塗られた唇をソッと押しつけるように、何度も何度も近くで確認していたのだった。この少女は普通の友達というか、肉食係女子というか、腕力系女子というか……。
カイナは、ただの上腕二頭筋フェチであった。
それも、ふだん空手部で見慣れている鍛えた筋肉には興味がないらしく、僕のように細くてツヤツヤしてるのが好きらしい……。なんか自分で考えていて、情けなくもあるが……。
「……ったく。それで、人の指を見つけた話を聞いて、君は何も感じなかったの?」
僕はため息混じりに、そうカイナに尋ねていた。
「んぅぅ。まあ、実際、現物がないと信じられない、ってのも理解できる言い分だよね。例えば、いまアタシがUFOを見たって言っても、君だって嘘くさいと思うっしょ」
「……かも」
「だよねー。人間、普段は見かけない事なんて易々とは信じないものさ」
「……そうだね」
と、僕は普通に答えたつもりだったが、どうしても暗い顔を隠せなかった。友達にすら信じてもらえなかった。その事実は重く、胸の奥がギッュと締め付けられたのだった。しかし、僕が落胆していたら、「でもさ」とカイナが再び言葉を続けていた。
「アタシは信じるよ。君が、そんなウソは付かないって」
「カイナ……」
「だってさ、君に世間を騒がせるような、プラス根性はないもの。やるんなら、マイナス根性な下着ドロとかでしょ」
「おおおおおおおおおおおおおおいっっ! そっちかよ! 一瞬、感動しちゃいそうになったよ! っていうか、下着ドロだってしないし、犯罪は全部マイナスだよ!」
「あはははは。ジョーダン、ジョーダン」
カイナはあっけらかんと笑っていた。口は悪いが、嫌みな感じはしない。たぶん、隠している本当の気持ちを口にすることで、少しは心が軽くなるという事を本能的に知っている。だから、落ち込んでいる僕のために、わざと道化を演じているのだ。
ほんと、こいつは良いヤツだな。
僕は小さく笑っていた。