表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/73

#034-3 ヒミツの始まり

 火蜜さんがした仕草は特別な合図だった。


 僕は座っていた椅子から降りると、火蜜さんが寝ているベッドの下に近づいた。そして、白いベッドから差し出されてくる生足を手に取ったのである。甘い香りが強くなり、僕の後頭部に火蜜さんの息が掛かっていた。


「……ねえ、どうして、私が殺そうとした事を警察に言わなかったの?」


 と、声がした。

 今までの美しい風貌とは変わっている。何の感情もない、機械みたいに無機質な声色だ。もう、何度も同じ質問に答えているというのに、何度も同じ事を尋ねてくる。これも秘密の儀式の一部なのだろうか。彼女は、これを、これからも永遠に繰り返すのだろうか。

 何も分からない。

 僕は、ただ繰り返された同じ言葉を紡ぐ。


「……確かに貴方から殺されそうになりました。でも、貴方に、僕の命を助けられたのも事実だと思います。それは変わりません。あの犯人が偶然にも事故で死んだ今、その事を蒸し返す必要もないと、そう思います」


 これは本心だった。

 彼女から殺されそうになった、というマイナス。

 彼女から命を助けられた、というプラス。

 その両方の経験を足して、いま僕たちの関係をゼロに戻す。


 良い事も悪い事も含め、一度全てを無かった事にしよう。もう一度、最初からやり直そう。もちろん、社会的に考えれば落下する崖にまで追い詰めた火蜜さんに罪がないワケじゃない。彼女に協力していた僕だって、まったく罪がないワケじゃない。いや、そもそも殺そうとしていた殺人犯にだって罪はある。証拠がないから信用しなかった警察にだって罪はある。ただ、様々な経緯が重なり、あのような事故に偶然にも繋がったのだ。


 1つの事件が終わって犯行は止められたのなら、これ以上の結果は必要ないだろう。ほんの少し真実の欠片が、この手に残っただけだ、そう僕は思った。


「……ふふふ。さあ、私の白い足を舐めたいんでしょ。いいわよ。ただし、指の間もね」


 火蜜さんが玩具で遊びを誘う子供のように笑い出していた。

 そして、僕は手にしていた足を少し持ち上げた。

 これは、もう誰にも言う事ができない本物の儀式。

 初めから最も望んでいた本物の秘密。

 でも、初めから手にしていた秘密。

 それを壊さないように……。


 僕は、ただ黙って彼女の白い足を舐めていた。



拝読、ありがとうございました。

かなり昔に書いたので、粗が多く、変な青臭さも残っておりましたが、そのままにする事にしました。今読むと恥ずかしくもありますが、これを切欠に色々と勉強になりました。


重ねて、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ