#003-3 ヒミツを嫌う
ただ、なんていうか……。
結局、学生時代なんてさ、陰口を叩かれるような事をしたヤツの負けじゃないかな。
例え、自分は善意からの行動だったとしても、それとは無関係に悪い噂なんて広がってしまう。一度でも蛇口が捻られてしまえば、もう黒い水は簡単に止められやしない。ある程度は理不尽に耐えなきゃ、誰だって普通の学生生活なんて過ごせないんじゃないかな……。
そう、僕は諦めようとしていた。
本当は納得なんてできないけど、仕方ないって必死に思い込もうとしていた。どーせ、世の中こんなもんさ、って冷めた感じになっていた方がずっと気も楽だし。明日からも笑顔の仮面を貼り付けさえすれば、何とか登校できると思っていた。
でも、彼女は違った。
「……ぁああああああああああああああああああああああああああああああッッッ! いくら何でも、黙ってられねぇって。オメェら、そういう子供みたいなマネは、ここでお終いな! これ以上やるならアタシが一発ぶん殴るからねっ!」
火蜜さんじゃない。
彼女の怒声が発せられると同時に、僕の陰口はピタリと止まったのだった。いや、それだけではなく、動物園のように騒がしかったハズの教室に、完全なる静けさが広がったのである。クラスメートたちは、引きつった顔で固まっていた。例え、どんなに怖い教師でも、こう簡単に十代の高いテンションは止められないだろう。
ただ、僕は驚いていなかった。
このクラスには、それぐらい発言権が強い女子がもう一人いた事を思い出していたのだ。ある意味で、美女の火蜜さんと人気を二分するといえる人物。
その彼女はドカドカと足音を立てて、僕の此方に近寄ってきた。
「……ったく、君も君でちゃんとしろよなっ! そんな机に伏して寝たふりなんかしてるから、みんなチョーシにのっちゃうんだろ。聞いてるこっも我慢の限界だっつーの」
「仕方ないだろ……」
「仕方なくなんかない! 意味がわからん!」
「……意味は分かるでしょ」
「うっさい! 黙ってれば台風が過ぎ去るなんて、チョーシのいい話はこの世に無いんだぞ!」
「……台風だって、いつかは通り過ぎるよ」
「その前に台風を拳で粉砕するのが男ってもんだろっ!」
そう無茶な事を言って、彼女は僕の頭を軽く叩いた。ただ、それは本人の認識であり、やられた僕としては国語辞典の角でドンと殴られたみたいな痛みが頭に走っていたのだった。
「いったっ! い、痛いよ」
僕を滲んだ涙を拭きつつ、恨めしそうに顔を上げた。すると、目の前には、夏の日差しのように爽やかな笑みを浮かべている美しい女の姿があったのだった。
「……ありゃ、そんなに痛かったか。ごめん、ごめん。なんか困ってる友達をムシしてるアイツの事が気にくわなくてさ。つい力が入っちゃったよ。へへ」
彼女の名前はカイナ(海奈)。
フルコン系空手の全国大会で優勝している現女子武道王者。
そして、唯一、特別である火蜜さんの事を、徹底的に毛嫌いしているスポーツ系少女だった。