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#029-2 ヒミツの殺人計画

 そう僕が興味本位に尋ねると、火蜜さんは艶やかに微笑む。


「ふふふふ。どの方法も選んでないわ」


「……え」


「別に死体が見つかっても良いって事よ。私達の状況を、冷静に思い出しなさい。例の殺人犯を殺そうとしてはいるけど、別に通常の個人的動機があるワケじゃないでしょ。恨み、金銭、人間関係といった普通の殺意に繋がる要素がないのよ。偶発的に森の中で出会った、というのが始まりに過ぎないのだから、それを知らない人間にはわかり得ない。死体が世間に発見されたとしても、警察の手は私達まで届かないのよ」


「……あ」


 僕はハッとした。

 殺す瞬間と、殺した後の処理ばかりに気が回っていて、殺す前の事は頭に浮かんですらいなかった。確かに殺意そのものが通常の形ではないのだから、通常の捜査をするであろう警察には気がつかれない可能性が高い。

 そう僕が納得していたら、火蜜さんが何やら長くて細い箱をスッと差し出してきた。


「ただね、何もしないワケじゃないわ。死体から出るニオイは市販されて農業用の腐敗臭を使えば99パーセント除去できる。今の農地が昔ほど臭くないのは、このホームセンターで売っている薬品のお陰ね。そして、学校の近くに崖があるから、そこから突き落としておきたいわね。その上に濡れたゴザでも掛けておけば、遠目からだとゴミにしか見えないから大抵の人間は近寄らないでしょ」


「……あの、それで箱は何なんですか?」


「サランラップよ。これを全身の地肌に巻き付けてもらうわ。服は新品を買ってあるから、巻き終わってから着替えてね。そして、現場に向かう途中は帽子をかぶり、到着したら首から上にも貼り付けるわよ」


「ど、どうして、そんな真似を……」


「人間的な関係性から私達にたどり着く事はなくても、髪や上皮組織、付着物から足がつくかもしれないわ。海外ほどではないけど、静電気による科学捜査ぐらいは今の日本でもやっているのよ。それらを防ぐため、サランラップという代物は、安くて処理がしやすい最高の道具なんだから」


「……そうなんですか」


 僕はゴクリと唾を飲み干した。

 この人は、どうしてこんなにも冷静なのだ、そう驚くしかなかった。いや、あまりの人間性のなさに寒気すら感じていた。本当に、彼女は秘密にしか興味がないのだ。他は全て捨て去ってしまったかのような、気がしていたのだった。

 もし、この殺人計画が本当に実行されるとしたら、僕は何処かに逃げ出していただろう。絶対に殺人を阻止させてみせる、という気持ちがあるからこそ冷静でいられた。ウソ、偽り、誤魔化し、裏切り、それらを胸に秘めているからこそ、火蜜さんと向き合えたのだった。とても、生身の心には耐えられなかっただろう。

 絶対に元の生活に戻る、そう僕は誓っていた。


 ―――だが、それは甘い考えであった。


 再び砕け散る。

 最後の日、心が飛散する。


 僕の作戦は成功したハズなのだが、脳の奥に暗い闇が染みこんでくる事となったのだ。




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