#028-1 相手
「……ったく、ここまで私に手間を掛けさせるなんて、めんどくさい男ね」
美しい彼女が苛立ったように呟いていた。
僕が家から持ってきたクマさんのビーズクッションにお腹に置いて俯せたまま、ラップトップの画面を睨んでいる。艶やかな黒髪をポニーテールに束ね、パタパタと黒いニーソックスを揺らしながら情報データ交換ソフト『ファット』起動させていたのだった。
彼女の名前は火蜜さん。
一緒に連続殺人鬼を殺すと密約を交わした美女であった。
「……まあ、気長に行きましょうよ」
そう僕は返事をした。
調べ物をしている火蜜さんの傍らに腰掛けて、独り言に生返事を返していたのだった。ただ、邪魔をするワケにもいかないが、離れるワケにもいかない。今宵、僕たちは殺人犯をおびき寄せる作戦を実行していたのだった。
ただ、順調とは言えない状況というか……。
僕らが殺人犯を騙すのは二度目という事もあり、流石に易々とは引っかからなかった。煽ったり、褒めたり、貶したり、第三者を装ったり、某掲示板のコピペを真似たり、徒党を組んでいるフリをしてもダメ。その全てが失敗に終わった所だった。
「……調子は、どうですか、火蜜さん?」
「んーんーんぅぅぅぅ」
僕が話し掛けても、集中している火蜜さんは反応が鈍かった。
こういう状況が、かれこれ疑似共同殺人の契約を交わしてから一週間は経過している。
その間、犯人に襲われたこともなかった。進展も無ければ後退も無い、という膠着状態でなのあった。これでは単純にクラスメートの美女の部屋で密会をしているにすぎないだろう。それを何となく察した友達のカイナとカオリさんから、「お前は通い妻か」とダブルツッコミを受けてしまうほどであった。
「あぁぁあー、もうダメね。この犯人、徹底的に観衆とは関わらないみたい」
と、ため息混じり火蜜さんは呟いた。
「反応なしですか」
「ええ。相変わらず、視聴者の反応は気になっているから、定期的にコメントは残しているんだけどね。怯えたように反応してないわ」
「……そうですか」
すると、ビシッと火蜜さんは僕に人差し指を向けてきた。
「ただ、完全に諦める必要はないわよ。どれほど念入りに計画を立てる秩序型殺人犯でも、いつかは我慢できなくなる。自己顕示欲を満たすために殺人を始めたのだから、もうその行為でしか快感が得られなくなるのよ。そして、一度転げ落ちた石は坂で加速するように、快楽はエスカレートして最後は破滅するに決まってるわ」
「でも、挑発に乗ってこないのなら、誘い出すのは難しいですよね」
「―――だから、君、ちょっと縛られなさよ」
「は?」
あまりに唐突な台詞だったので、僕は目が点になった。




