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#027 ヒミツの共犯



 お腹が一杯だという人に食事をさせるには、どうしたら良いだろうか。


 もちろん、暴力、脅迫、薬物、洗脳などの外的手段を用いないで実行する方法だ。その答えは最も単純な考えになるかもしれない。要するに、相手の最も好物な食べ物を用意すればいいのだ。人間の欲に限りは無い。どうせ直ぐに腹を空かせて、我慢できず好物に手を伸ばすハズである。


「―――僕と一緒に、あの殺人犯を殺しませんか?」


 これしか無かった。

 僕と強い秘密を作りたがっていた火蜜さんを、再び今回の事件に関わらせるにはコノ方法しかなかった。他にはない。もう前回の作戦でお腹が一杯になっている火蜜さんと協力するには、より強い刺激をエサにするしかないのだ。つまり、この世で最も強い秘密になるであろう、殺人の共犯である。


 もちろん、全てハッタリだ―――


 何も本当に殺人犯を実行するワケじゃない。その手前まで火蜜さんと行動を共にし、最後の最後、犯人を捕まえられるという瞬間に裏切るのだ。何せ、今は警察も親も友達も信用してくれない状況である。普通に頼んでも火蜜さんは受け入れてくれないし、僕だけじゃ犯人を呼び出すことだってできはしない。もう、より強い秘密という餌を使って彼女の深い知能を借る、これしか残された方法は無かった。


「……ねえ、それって本気なの?」


 暫し思い沈黙が続いていたのだが、やがて火蜜さんはポツリと呟いた。何も見ていない無機質な瞳。何も表さない無表情。口元からつむんでいた。まるで、古木で作られた能面のようだ、と僕はゾッとしていた。


「……はい。本気です。2人でやりませんか」


「どうして?」


「それは……」


 2人の安全のためです、そう言いかかったところで僕は口を止めていた。ダメなのだ。それを言ったところで、火蜜さんには通用しない。自らが危険になる事よりも、僕との秘密の深さを求めた人である。合理性、利便性、共感性、幸福論、拙い情緒論、哀願、懇願といったものは全て通用しない。

 ここで言葉の選択を間違えちゃいけない、そう僕は思った。


「……そ、それは、2人の秘密をより深めるためにです。殺人というタブーを犯すと事により、僕たちの秘密は一番固いモノに」


「あっ!」


「え?」


 僕が話し終える前に、火蜜さんが奇声をあげていた。真っ白な天井を見上げ、艶やかな唇が光る口を開けていた。そして、あ、あ、あ、あ、あ、と細かく呟きだした。熱く、甘く、過呼吸のように甘く喘ぎだしていた。硬骨な表情に目をトロンとさせ、口元から艶美に涎を流しているのだった。


「……火蜜さん」


 唐突な様子に僕は驚いた。いや、それに気がついたとき、ハッと息をのむしかなかったのである。椅子と太ももの隙間にある陰部が、蛍光灯に照らされて輝いた。キラキラと、キラキラと。下腹部のミゾから流れ落ちる透明な液体によって椅子の上が光った。

 その正体に、僕は直ぐ気がついていた。


 この鼻に劈くようなニオイ―――


 ああ、火蜜さんは失禁したのか、そう僕は思った。


「……嬉しいわ」


 僕が言葉に詰まっていると、そう火蜜さんが目を覗き込んでくる。


「今の君の誘いが、私にはプロポーズのように聞こえた。この世の中に、これほど求愛の形があるのかしら。私は、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、少し思いが出てしまったみたい」


「火蜜さん……」


「さあ、誓いなさい」


 スッと火蜜さんは、僕の前に白い生足を突き出してきた。まるで、下腹部の隙間を見せつけるように……。まるで、漏れている水滴すら差し出すように……。まるで、僕たちの関係をより深いモノにするように、全てをさらけ出していた。


「私と一緒に人殺しをするのなら、私に誓いを立てなさい。最初と同じように」


「……はい」


 僕は、ただ黙って彼女の白い足を舐めていた。

 心の中では、火蜜さんが殺人の申し出を素直に受け入れた事にゾッとする。だが、前ほどではなくなっていた。僕だって、そう変わらない。これまでのヒミツを裏切り、これからのヒミツを騙すため、いまウソを付いた。


 今日、この時、この瞬間をもって、僕たちは共犯になったのだ。



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