#024-2 ヒミツの過去
「そだよ。何も、ここは君を責め立てる集まりじゃない。ただ、君と同じように、友達が心配だっただけだよ。危険なことに関わっているんじゃないか、ってね。ま、火蜜の心配は、ついでに、だけど」
「そーいう事。言いたくないことがあるのなら、ムリして言う必要はねーよ」
「二人とも……」
僕は情けない顔のまま笑った。友達のカイナとカオリさんの優しい気遣いに、少し心の中が暖かくなっていくような気がしていたのだ。今の辛い状況が何一つとして変わるわけではないが、それでも僕は感謝の言葉を呟かずにはいられなかった。
「ありがとう、二人とも」
「友達だろ。良いんだ、気にしなくて」
「そ。後で君が私の芳香剤になってくれるならね。本当に、3000円までなら出すよ」
「あ、カオリだけキタねぇぞっ! な、なら、アタシにも君の腕をくれっっ!」
「……腕をくれって。それ、聞きようによっては猟奇みたいよ」
「ち、ち、ちがうっ! そういう意味じゃなくてっ!」
「なら、どういう意味なのよ。前から思ってたんだけど、カイナって少しドを超えた変態よねぇ。世間には匂いフェチっているけど、腕フェチなんか殆どいないでしょ」
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああッッッ! オメェは、いま全国にいる腕フェチファンを罵倒したっ! それだけは聞き捨てならねぇーぜ」
「……なら、1つ聞きたいんだけど、カイナは男のタンクトップは許せるの? ちなみに私は嫌い。男の人は鍛えてるから見せたいのかも知れないけど、私は脇の毛とか見えるから嫌悪感すらあるわ」
「……う、それは」
「ほら、見なさいよ。貴方だって嫌いな腕があるじゃない」
「それを言うんだったら、お前だって嫌いなニオイとかあるだろっ!」
「無いわ」
「え」
「私は本のニオイと、この少年のニオイ、だけ、が好きなんだから」
「あー、ズリィ。その言い訳はズリィぞ。アタシも、その言い訳したいぞっ!」
いつまでも続くと思えるような2人のやりとりを見て、つい僕はクスリと微笑んでいた。いつ殺されるかもしれないという状況なのに、以前のような普通の学校生活に戻っている気がしていたのだ。つかの間とはいえ今の気持ちを大事にしたい、そう僕は思った。
「そうそう、性癖で思い出したけど、あの女には気をつけた方が良いよ」
すると、ふいにカオリさんが鋭い瞳を向けてきたのだ。
「……あの女?」
「火蜜の事よ」
「え、どうして……」
「だって、考えてみなさい。『ファット』に書き込んでいた私の文章は一般論を過激にしたモノ、殺人犯の文章は自己顕示欲に酔ったモノでしかない。どちらも両極端なだけよ。でも、あの女の書き込みは別でしょ。自分の性癖を理解しつつ管理し、それを満たすために他人を操ろうとしている。私から言わせれば、一番危ない本物はアイツね」
「……あ」
思わず僕は言葉につまってしまった。操られる、その言葉が脳裏に突き刺さってきたのである。殺人犯を取り押さえられるのに、秘密が作りたいから僕を襲った日の事を思い出してしまったのだった。それだけで、ゾッと背筋に冷たい刺激が走っていた。
そんな僕を見て、カオリさんは暗く呟いた。
「なに、思い当たる経験でもあるの?」
「……いや、その」
「まあ、あんな事件に巻き込まれたら、私よりも遙かに性格が歪むかもしれないけどね」
「……じ、事件?」
「これ、本当は黙っているつもりだったのよ。でも、私が思っていたより、君は彼女と近づきすぎているみたいだから、忠告の意味を含めて話すわ」
「……うん」
「実は―――あのヒトだけ、子供の頃に誘拐されたことがあるのよ」




