#024-1 ヒミツの過去
僕は世間に隠れたまま、殺人犯を見つけるつもりだった。
まず、何も証拠を掴んでいないので、警察にだって話しを信じてもらえない。親しい友達に説明すれば、危ない状況に巻き込んでしまう事になる。それに、唯一、協力をお願いできる相手が隠す事を望んでいるから、僕は黙っていようと考えていた。
―――でも、ダメだ。
いま、その秘密の扉が開かれてしまった。
図書委員のカオリさんによって……。
「まあ、私も初めは気がつかなかったんだよね。いわゆる、特別性を気取ったヤツの有り触れた書き込みだと思ってたわ」
「……そうなの?」
カオリさんの申し出を聞いて、僕は少し驚いた。
「ええ。初めに気がついたのは私じゃないわよ。ただ、私の友達だけが、ニオイをかぎ分けられたんだよね。不思議と、瞬間的に、絶対的な確信を持ってね」
「……どうして?」
「それは、たぶんね、ソノ彼女からすれば、この世で一番強い感情の一つだったんじゃないかな。動物的な本能というか、嫌悪っていうかさ」
カオリさんは怪しく微笑んだ。すると、今まで黙っていたソノ彼女が叫んでいた。なぜか椅子の上でふんぞり返り、鉛筆でタバコを吸っているフリをしたままスポーツ係女子のカイナが決めポーズを作っていたのだった。
「ザッツライトっ!」
「なんで、急に英語なのよ」
「んふふふふ。カオリ、この英語の意味が分かるかな」
「……なに、自分で自分の脳みそが軽いって言いたいの?」
「ちがぁぁぁぁぁああうっ! 私の脳こそはスポンジかも知れないが、この場合の英語の意味は、その通りに決まってるだろ。文字でしか分からないボケをかますな!」
カイナとカオリさんは話し出した
ただ、その二人を尻目に、僕は諦めたようにため息を吐いていた。彼女たちは、もう火蜜さんが先に殺人犯を『ファット』上で挑発していたと核心を抱いている。もう、どんなウソを付いたとしても、いまさら通用しないだろう。
「……あの、本当に直感だけで、火蜜さんが挑発していたと分かったの?」
僕が呆れたように尋ねると、カオリさんがニヤッと笑っていた。
「それは切欠よ」
「切欠?」
「そ。ネット上で相手は見えないんだから、易々と核心は得られない。でも、それから気にしてコメントを追うように私もなったの。何より、カイナの火蜜ぎらいは徹底的だから、間違えるとは思えなかったしね」
「そぉぉぉぉぉぉぉう。アタシ、アイツ、チョー、嫌い」
「なんで原始人風なんですか。でも、それだけで決めるなんて……」
「後は時間で割り出したのよ。『ファット』にIDやIP表示は無いけど、書き込みの時間表示があるでしょ。それで、時間帯の統計を計ったら、主に平日は登校時間外だし、学校行事で帰宅が早まると書き込みも早まった。少なくても、相手はウチの学生という確信を得たわ」
「あ……」
僕は絶句し、俯いてしまう。
この話しが始まった所から、何かイヤな予感がしていた。カイナの動物じみた直感と、カオリさんの理論性が掛け合わさったら大抵の秘密なんか隠し通せるはずもない。しかし、まさか、こんな形で誰かにバレるとは想像もしていなかった。
―――そして、何よりも問題なのは、その次の考えである。
火蜜さんがネット上で殺人犯を挑発していた事に気がついたのなら、どうしてそんな事をしたのか、という事がカイナとカオリさんの疑問になるだろう。それが当たり前だ。さっき僕も、気になって学校まで来てしまったぐらいである。2人だって、それを質問せずにはいられないだろう。きっと、これから強引にカイナとカオリさんに問い詰められる。そうしたら、もう僕は本当の事を話してしまうだろう。友達にウソをつき続ける自信なんて僕には無かったのだ。
だが、そういう僕の考えとは逆に、フッとカイナが笑っていた。
「……顔を上げなよ。男の癖に情けない顔をするんじゃない。何もアタシ達は、君の口を強引に割らせようとしているワケじゃないんだからさ」
「え」
俯いていた僕が顔を上げると、続いてカオリさんが口を開いた。




