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#023 ヒミツの書き込み

 ネット上で死体の閲覧を予告し、本当に実行している連続殺人犯がいる。


 彼を賞賛しているデータ情報交換ソフト『ファット』の住人達がいる。その場所で、初めて敵意をむき出しにしているハッカーという人間のコメントが書き込まれたのだった。


「……でも、この人、やっぱり友達のカオリさんだ」


 僕はパソコンの画面を見たまま呟いていた。

 このハッカーという人物は、グーグーアースからだけでは調べられないぐらい、この街の地理に詳しい。それに、学校の細かい情報も知ってる。何より、この腐った文学少年って独特のフレーズが何度も使われているのである。それは、図書委員のカオリさんの口癖なのだ。

 ほぼ全ての過去ログを確認した後でも、最初に抱いた僕の印象は変わらなかった。いや、むしろ核心に近いモノを僕は感じていた。もちろん、それは他人のそら似という可能性も残っているけど……。


「……もし、本当にカオリさんだったら危険すぎるぞ」


 いま『ファット』に関わると、遊びでは済まない。それは、本当に殺されかけた経験をした僕が一番よく知っていた。仮にハッカーの書き込みが本人だとしたら、友達として忠告ぐらいはするべきだろう。


「急いだ方が良いか」


 僕は壁に掛けておいた学生服に着替え、教科書も手にしないまま家を飛び出た。一応、電話で連絡する事も考えたのだが、いまは授業中の時間だったし、下手したら携帯を取り上げられるかもしれない。


「―――だから、次の休み時間まで、教室の外で私を待っていたと言うのか、君は」


 キンコーンカンコーン。

 昼休みチャイムが鳴り響く。そして、同時に教室から出てきた大抵の生徒は、解放された喜びで笑顔になっているだろう。ただ、図書委員のカオリさんだけは、僕の話しを聞くとニヒルな笑みを浮かべていたのだった。


「ごめん」


「……まあ、いいけど」


「少しでも早く、カオリさんと話しがしたくて」


「ふぅん。嬉しい事を言うわね。でも、そういう甘い台詞は、他の女を連れて言わない方が良いわよねぇ」


「……ごめん」


「アタシが一緒でも別に良いジャン。あははは」


 僕が謝ると、そう肩に手を回している友達のカイナが楽しい声で笑っていた。連れてくるつもりはなかったのだが、どこで知ったのか登校すると否や駆けつけてきたのだった。


「まあ、アタシは君が学校に足を踏み入れた瞬間から分かっていたよ。あ、アタシの好き腕が来た、ってなぐあいにね」


「……流石、野生の女。この子の腕となると第六感が冴えてるわねぇ」


「まあね。あははははは」


 口の悪いカオリさんからバカにされたというのに、カイナは脳天気に笑っていた。僕としては、疲れたようにため息を吐くしかなかったのである。


「……それで、さっきの話しだけど、あの書き込みは確かに私よ」


 僕たち3人が図書室まで足を運んだ後に、そうカオリさんは言った。まるで、何かしらの答えが分かっているような、含みのある笑みを浮かべていたのだった。


「やっぱり、あれは君だったのか」


「ええ。最近、やるやら夫系のアフィコピペブログにネタが乗り出したしね。もう、『ファット』を知っている一般人も多いわよ」


「……なら、『ファット』の住人達の危険性は分かるだろう。変なヤツらを刺激しても良いことはないよ。いや、むしろ、かなり危い行為だよ。特に、今は本物の犯罪者も混じってるんだから……」


「本物?」


「本物は本物だよ」


「……なーんか、なんか色々と知ってるような口ぶりね。なに、本当は先に同じ事をして、もう痛い目にあってるとか?」


 そのカオリさんの鋭い台詞に、僕は少しドキッとした。


「……別に、そういうワケじゃないよ」


「ふぅん。まあ、安全を気遣ってくれるなんて、本の芳香剤さんには感謝してるわよ」


「……誰が本の芳香剤なのさ」


「君」


 と言って、カオリさんが僕の耳に顔を近づけてきた。甘くて。熱くて。湿って。少しエッチに喘ぐような声を口から漏らしながら、ほんの少し続けて囁いたのである。


「……でも、私よりも先に、『ファット』で殺人犯を挑発していたヒトがいるでしょ。あれ、本当は例のヒミツの彼女なんでしょ」


 その途端、僕の体温は確実に1度下がっていた。




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