#022-2 友達
「っていっても、こっちも変化なしか……」
やはりというか、当然というか。
この街に隠れている連続殺人犯は撃退された後、p2p系データ情報交換ソフト『ファット』に書き込むことはなくなっていた。僕らに顔を見られているかも知れないし、かなり警戒していて当たり前だろう。もしかしたら、もう姿を永遠に現させないのかもしれない。少なくても僕が殺人の犯人だったら、バレそうになった瞬間にこの街から逃げ出しているだろう。
ただ、そう考えると同時に、合理的な判断ができないから犯罪者になった、という理屈も成り立つ気がした。少なくても、いくら警察に追跡が出来ないとはいえ、死体の閲覧をさせるなど馬鹿げているとしか思えない。そんなバカ野郎が何をするかなんて、普通の人間には分からないだろう。
どっちにしても反吐が出る話だな、そう僕は思った。
「……あれ、なんだこれ」
色々と考えつつ『ファット』を眺めていたら、ふと一つ新しい書き込みがされた事に気がついた。いや、それを読むと、つい僕は席から立ち上がるぐらい驚いてしまったのである。それは、こう書かれていた。
『……君たち達。チギライのことを神と崇めているけど、よく考えてみなさいよ。もっと惨い殺人なら海外サイトでスナッフビデオが沢山あるし、残虐な話しなら今メキシコが熱いじゃない。なら、どうして、ちんけで地味な殺人犯の肩を持つのかしら。byハッカー』
と。
他のみんなが賞賛している中で、このハッカーというヤツだけが露骨に貶していた。それは当たり前の事なのだが、ここ『ファット』では常識が通用しない。むしろ、正論が邪道のような場所である。だから、当然というか、彼らの反応も当たり前の悪意が跳ね返ってきたのであった。
『ハッカー(笑)』
『じゃあ、こんな所に来るなよ。俺らは、俺らで楽しんでるんだから、ほっとけ』
『うわ、やっべー。俺らスーパーハッカーからハッキングされちゃうかもなw』
などなど。
ハッカーという人物に対して、悪意と敵意をむき出しにしている書き込みがあっと言うまに増えていく事となった。まあ、そうなるよな、と僕は思った。ただ、ハッカーは気にしたようすもなく、持論を更に転回したのだった。
『要するに、君たち達は共同体じゃない。安全なところから凶悪な殺人犯を操っているように錯覚し、拙い自己顕示欲を満たしているだけ。他の人が映画やドラマを見て英雄に共感しているのと同じようにね。対した差はないわ。腐った文学少年じゃないんだから、プライドを持ちなさいよ。byハッカー』
その書き込み以後、賞賛しかなかったハズの『ファット』が荒れ出した。
始めた張本人であるハッカーも加わったまま、様々な形の議論を続けていく結果に繋がっていたのだった。ある意味で、この自称ハッカーというヤツは暗い場所に清涼なる一石を投じたと言えるのかもしれない。痛い所を見抜いてしまうハッカーに、『ファット』の住人達も無視ができなかったのだった。
1人で、たいしたもんだな、そう僕は思う。
ただ、本当に驚いたのは、そこではなかった。
「……っていうか、これ、もしかして、書き込んでるの図書委員のカオリさんか?」
マウスを握りしめている僕の手に、じわりと汗が滲んでいた。




