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#022-1 友達

「……ねえ、お兄ちゃん、大丈夫?」


 ふいに話し掛けてくる声がした。

 自室のベットに寝ころんでいた僕は、誰だろうと目を開けていた。すると、女の子が部屋に入り込んでくる姿が見えたのだった。黒髪のボブカット、潤んでいる丸い瞳、守ってあげたくなるような童顔。小型犬のように可愛らしい容姿といえるだろう。名前は、ナミ、中3。開いたドアの所から此方を心配そうな顔つきで眺めているのは、僕の妹であった。


「平気だよ」


 と、僕は面倒そうに返事をしていた。正直、今は誰とも話したい気分ではない。薄暗い部屋の中で、一人っきりのままジッとしていたかった。だが、心配してくれている家族に対し、子供みたいに八つ当たりをする気もなかった。


「ふぅん」


「……なんだよ」


「ほんとに平気なの」


「ああ、僕は平気だよ。それより、なんでナミが家にいるんだよ。学校は?」


「私は忘れ物を取りに来ただけよ。むしろ、家にいるのはお兄ちゃんの方でしょ。ずっと部屋に閉じこもっているし」


「……そうだね」


「私、心配なんだよ」


「ごめんな」


「ほんと、もう心配で。もし、お兄ちゃんが糞ニートになったらどうしようか、心配で」


「……ん?」


「腐った性根のまま大きくなって、妹に欲情するようなクソ野郎になるんじゃないかと心配で。もしかしたら、お風呂を覗いたり、パンツを食べたりするんじゃないかと心配で。ほんと、もう心配が止まらないんだよ、お兄ちゃん」


「……おい」


「もう、私、どうしたら良いの? ダメ人間、童貞、アホ面、ガリ、靴が臭い、バカ、トイレの蓋を閉めない、鼻水を制服でふく、っていう、とっても優しい兄なのに。もし、これから更にダメになったら、底辺オブ底辺になるんじゃないかと心配で。うううう」


「それ、褒めてないよね。上っ面は褒めようとしているけど、裏の悪意がだだ漏れだよね」


「だって、心配なんだもんっ!」


「だってじゃねーよっ! どう聞いても心配してねぇーだろっ!」


 そう僕が言うと、妹のナミはピッュと姿を消した。よし、慌ただしいヤツが居なくなってホッとした、と思ったら再びナミが戻ってきたのである。


「私を心配させるのは良いけど、オトーさんとオカーさんに心配かけないでよね」


「……分かってるよ」


 僕が呟くと、ナミは満足そうな笑みを浮かべたまま居なくなっていた。

 こんな時間に忘れ物を取りに帰ってくるなんて事はない。きっと僕の事を心配して、一声かけてくれたのだろう。童顔の見た目に腹黒い性格、そして嫌みな性格をしているヤツだけど、本当は心の優しいヤツなのだ。


「……まあ、やるか」


 僕はポツリと呟いていた。

 今の状況は怖い。あの夜の事を想像するだけで、今だって震えてしまう。それは間違いないが、ただウジウジしていても仕方ないだろう。妹に元気づけられた僕は、何となく自分のパソコンで『ファット』を起動していたのだった。


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