#019-3 ヒミツの作戦
―――その時だ。
ぱき。
と。
音がした。
茂みの奥の方で……。
薄氷が割れたような。木の枝が折れたような。細い骨が砕けたような。そんな小さい音が静かな闇夜に響いた。それだけだというのに、僕を何度も辺りに視線を配る。眼球をむき出しにする。暗くて見えないのに、何かを見ようとしてしまう。随分と落ち着きを取り戻していた心臓が、再び激しく動き回っていたのだ。
「……ちょっと私が見てくるわ。君は、ここで待っていて」
急に、そう火蜜さんが言い出したので、僕の鼓動は更に跳ね上がった。
「え、で、でも、危険じゃ」
「少し声のトーンを落として」
「あ、ごめんなさい」
「……ちょっと、行って見てくるだけよ」
「でも、もし犯人が逃げている所だったら、どうするの?」
「そうしたら最初の予定通りに行動するだけでしょ。ここまできて何を言ってるのよ」
そのプランとは、おおよそ作戦と呼べるようなものではない。僕にでも思いつくような荒い考えであった。要するに、犯人が現れたところを携帯電話の夜間モードで撮影する、というのだった。
「……でも、顔が明確に映るぐらいにするなら、かなり近寄らないと」
「そんなの平気よ。いざとなったら走って逃げるから。君は方向だけ間違わないでね。怖くなったら、大声をバカみたいに出せば良いから。そしたら、相手は逃げるわよ」
「……で、でも」
「もう、ゆっくりしている時間はないの。とにかく、見てくるわ」
そう言って火蜜さんは姿を消した。
艶やかな着物姿なのに、中腰のまま小走りをしていた。その姿は愛らしくもあり、滑稽でもあり、異質でもあった。ただ、誰も居なくなってしまった暗い森の中。一人でいるという事実が、より僕の口から水分を奪っていったのである。
「……早く戻ってきてよ、火蜜さん」
情けないけど、僕は子供みたいに怯えていた。
暗い木々の隙間を見ているだけで、そこから誰か襲ってくるんじゃないか。茂みの中から、尖ったナイフが突き出してくるんじゃないか。また下から注射器で刺されるんじゃないか。そういう恐怖感だけが、ドンドンと高まっていたのだ。
だから、ぽんと、背後から肩を叩かれたとき―――
全身の筋肉繊維が硬直した。
ビクッと内臓まで凍り付いた。臓腑が握りつぶされ、酸素を肺から送り出すことさえできなくなった。ああ、ここで死ぬのか、そう思うと滝のように汗が流れ落ちていた。残った水分を排出するように、全ての皮膚の穴からしみ出ていた。




