#019-1 ヒミツの作戦
彼女は教えてくれた。
例えば、ミルウォーキーの食人鬼、ジェフリー・ダーマーは十数年で17人以上は殺している。彼は殺した死体こそが仲間であると感じており、その『仲間』の頭蓋骨に穴を開けて硫酸を流し込んだりもした。理由を裁判官が問うと、ゾンビ(生ける死体)にして操りたかった、と述べている。生きている人間だけではなく、死んだ人間すらも支配したかったのだ。
―――とか。
例えば、サムの息子、デビッド・バーコウィッツは、6件の殺人と2000件の放火を自供している。マスコミや警察を狡猾な作戦で手玉に取り、米国中を恐怖に陥れた犯人は、まともな文章も書けないぐらい知能が低かった。逮捕した刑事は初め、反応が悪いので知恵遅れの人間かと思ったらしい。
とか―――
簡単に、彼女は色々と教えてくれた。
だが、どんなに詳しく説明をされても、僕は上の空でしかなかった。つまらない授業を受けているような気分というか、どうしても彼女の話に耳を傾ける事ができなかった。正直、そんな事より、もっと気になる事があったのだ。
―――これから本当に、僕の街に隠れている連続殺人鬼と会う。
その事実は、何よりも思考能力を奪い取っていった。そりゃそうだろう。だって、アメリカにしか居ないような犯人よりも、手の届く範囲にいる犯人の方が怖いに決まっている。犯罪のスケールそのものは小さいが、ネット上で死体の閲覧予告をする殺人鬼の方が僕は生々しく感じていたのだった。
もしかしたら、僕の背後に殺人鬼が居るかも―――
それを想像しない日は無い。気が休まる日はないし、僕は緊張から口の中がカラカラに乾いていたのだった。
「……そう固くならない方が良いよ。こういうのって持久戦だから」
と、クラスメートの美女、火蜜さんがポツリと言っていた。
艶やかな着物姿のまま、同じ暗い茂みの中でしゃがみ込みこんでいる。誰かから逃げているわけではなく、2人で息を殺して隠れていたのだった。日が落ちているので辺りは薄暗いし、青々と茂った雑草に囲まれているので余計に見えにくいだろう。今宵、僕たちはヒトのユビが置かれていた森の奥で待機している所であった。
本当に連続殺人犯チギライがやってくるのだろうか、そう僕は思った。それだけでゴクリと思わず唾を飲み込んでしまった。




