#017-2 消えたヒミツ
女友達2人のやりとりを見て、僕は少しだけ微笑んでいた。
ただ、正直、会話が面白かったワケじゃない。ああ、これが大切な日常だという事を思いだしていたのだった。やっぱり、こういうのって大切だよな、そう噛みしめていた。
すると、そういう僕の反応を見たからなのか。
友達のカイナとカオリさんがコソコソと会話を続けていた。まあ、隣の席に座っているので丸聞こえなのだが……。
「ほら、少年を見てみなよ。やっぱり、カイナの曲芸に男は反応しないよ」
「……じゃ、じゃあどうすりゃ良いんだよ」
「古来より男が喜ぶのは2つ。美女とのマグワイか、美女との契りに決まってるわ」
「全部、セックスじゃねーかっ! こんな所で、できるか、アホっ!」
「あらあらあらあら、奥様は、こんな所じゃなかったらできるのかしらね」
カッと一瞬でカイナは耳まで真っ赤に染まっていた。
「な、な、な、な」
「それとも、好きなの腕だけじゃなかったりして」
「ば、ば、ば、ば、ば、ば、ばっ、バッキャロぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!」
顔を赤に染めたまま、カイナは図書室から飛び出してしまった。その時、2、3人の男子と肩がぶつかるも、まるでダンプカーのように吹き飛ばしていったのだ。流石、空手の全国大会覇者と言えるだろう。
「……あんまりカイナをイジめるなよ。友達だろ」
見かねた僕が、そう呟く。すると、ケラケラと笑っていたカオリさんが、急にスッと目つきを細めていた。
「だったら、友達の君が、そんな暗い顔をしないでほしいわね。そもそも、カイナが気を使って空回りし始めた原因は君にあるんだし」
「……そ、そうだったね。ごめん」
「ふん」
僕が俯くと、カオリさんはそっぽを向いてしまった。三白眼の瞳が、いつもより鋭くなっていたのは気のせいじゃないだろう。だが、僕にはどうして良いのか分からず、ただ黙り込むしかなかったのである。
「―――あの女のことだったら心配する必要ないわよ」
暫く沈黙が続き。
廊下の方から学生達の笑い声が聞こえてきた時、ふとカオリさんが口を開いていた。図書室の窓から沈んでいく赤黒い太陽を眺めたまま、僕の方に目を向ける事はない。それは、一瞬、カイナの心配をしているのかと思った。しかし、どうやらそれは、火蜜さんのことを言っていたのだと僕は直ぐに知る事となった。
「私は小学校が一緒だったから、よく知ってるの。あのヒトの本性をね」
カオリさんは呟く。
「本性?」
「いえ、同じ小学のヤツは他にもいたけど、いま気がついているのは私とカイナだけかもしれない。それぐらい本性を隠すのが上手いし。―――いえ、上手くなったのかしら」
「……なった?」
「そう。小学生の時、ちょっとした事件に火蜜は巻き込まれてね。あのヒトは、今の冷たい性格になったのよ。それまでは割と普通のお嬢様って感じだったわ」
「事件って……」
と僕が尋ねるとカオリさんは一枚の紙を差し出してきたのだ。
「それを他人の私が教えることはできないわ。ぺらぺら喋るような趣味はないし」
「……で、その紙は?」
「昔の名簿に載っていた、あのヒトの実家の住所よ。電話に出ず、今の住処には居ないのなら、こっちに行くしかないでしょ。両親なら何か知っているだろうし」
「あ、ありがとう。でも、どうして、そこまでしてくれるんだ」
「……秘密なんてモノは、あればあるだけ気持ち悪いのよ。友達の間にはね」
そう言ってカオリさんは、ニヒルに笑っていた。意地が悪く、口が悪く、目つきも悪いが、その心は誰よりも優しいのかもしれない。他の男子も見る目がないな、そう僕は思った。
「……ありがとう」
僕は頭を深々と下げてから紙を受け取った。そして、記されていた住所に、大急ぎで向かったのである。脇目もふらず、無心に走り続けた。今の不安な心をかき消すように、少しでも早くたどり着きたかったのだ。
だが、僕は急に止まる。
紙に書かれていた場所まで訪れ、ソレを見て固まる。
ソレに視線が奪われ。
ただ呟く。
「……火蜜さん?」




