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#016-2 ヒミツの道具


 p2p系データ交換ソフト『ファット』。

 日本で唯一あらゆる発言が許されている、ネットの吹き溜まり。

 僕は、その『ファット』を見つつ、火蜜ひみつさんに話し掛けていた。


「……こんなソフトを使ってる連中から崇められたいから、なんて理由で、本当に人を殺してるのかな」


「ええ」


「……なんか信じられない。そんな無意味な事をしてるなんて」


「ふふふふ。それが一般的な感覚ね。ただ、どんなに強がっても、ヒトは一人じゃ生きられないわ。もし、本当に孤独でも平気なら、言語、表情、仕草なんか必要ないの。でも、それを捨てられないでしょ。本当に他人が必要ないなら忘れられるのに、引き籠もりだって記憶に残しているわ。この違い、君に理解できるかしらね?」


「……それは」


「つまり、人間が作っていた文化を全て捨てられるヤツでもない限り、本心では他人との関わりを常に求めているという事よ。それは、この犯人も変わらない。ただ、社会的なモラルで考えると、普通の人は理解できないだけでね。所謂、心の壊れたサイコパスだって、他に強い動物と弱い動物もいるのに、わざわざ人間を狙うでしょ。同種族から離れる事は、容易じゃないのよ」


 火蜜さんは淡々と説明してくれた。

 しかし、それでも僕は納得できなかった。いや、単純に胸くそ悪くてしかたなかったのかもしれない。気持ちの悪いヤツらに褒められたくて、無関係の第三者を殺しまくっている犯人なんて認められるわけがない。正義心の薄い僕だって、いつの間に許せないという気持ちがわいていたのだ。


「……けどさ、だからこそ、そんな『ファット』の住人に紛れて殺人の犯人を誘き出すのは可能なのかな?」


 怒りの感情とは裏腹に、そういう微かな疑問が脳裏に浮かんでいた。すると、火蜜さんは褒めるように嗤っていたのだった。


「ふふふふ。良い質問ね。後で首筋を丁寧に舐めてあげても良いのよ」


「……か、勘弁してください」


「ふふ。でも、誘き出すのは簡単よ、元々、トモダチに褒められたくて殺人を実行しているヤツでしょ。遅かれ早かれ再び同じ事をするわ。最初に実行した時と同じ快楽を味わいたいと何度も何度も犯行を繰り返しているし、もう自滅するまで止まれないわよ。最初の時と同じ快楽を味わう事なんてできはしないのに、ハイエナの如く彷徨い続けるのよ。―――私達が狙っているのは、そのタイミングね」


「タイミングですか……」


「死体を展示する場所は、こっちには選べない。でも、この狭い街に死体を人知れず隠す場所なんて限られているから、後は来る正確な時間さえ分かれば罠にハメられるって事よ。仮に、一度めで失敗したとしても、何度も繰り返すヤツなんだから再びハメればいい。麻薬常習者みたいに止められなくなっているんだからチャンスはあるわ」


「……なるほど」


 僕は静かに頷いた。

 何度か死体を見せびらかしている犯人である。もう一度、実行に移す、というのは納得できる理屈であった。しかも、そのタイミングさえ操れれば、後は現れたところを警察に通報すれば逮捕できるだろう。


 難しいが不可能じゃない、そう僕は思った。


 いや、普通の学生には、これが精一杯の作戦だろう。自分たちには警察のように調べる手段も、探偵のように動く方法も、大人のように頼れるモノがないのだから……。


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