#015 ヒミツの脅迫
犯罪を立証する場合に必要なのが、証拠、証言、現場不在の確認である。
通常は、この3つを基軸に捜査を進め、最終的に逮捕するのが警察の捜査手順なのだ。公僕、報道機関、探偵、いかなる職業の人間も、これから外れることはできず、断片的な証拠というパーツをつなぎ合わせていくしかない。その犯人が連続殺人鬼なら、絶対に外せない要素になるだろう。
だが、しかし、それら3つのプロセスを、火蜜さんは全て度外視すると言い出したのだ。
「……ふふふ。だって、必要ないもの」
「なら、どうやって犯人を見つけるのかな」
「見つけるんじゃないわ。誘き出すのよ」
「え、でも、そんな事ができるんですか?」
「簡単ね。優秀な犯罪者ほど、普段とは違う行動範囲の中で殺人を犯すのはリスキーだという事を知ってるわ。逆に言えば殺人犯にベストな状況とは、普通の日常、何気ない瞬間、誰もいない場所になる。でも、そんな場面を意図的に演出するのは、本当に殺されてしまうリスクが高すぎる」
「はい」
「でも、私達の状況を冷静に考えてみなさい。自らが餌になる必要はない。―――それよりも私たちには、こういう釣り餌があるじゃない」
そう言って火蜜さんは、床に置かれていた一台のラップトップの画面を開いた。そこには、連続殺人犯が死体の展覧を予告するのに使っている、警察すら捜査できない違法なデータ情報交換ソフト『ファット』が起動していたのだ。
「……これを使って、誘いだす?」
「ええ、そう」
「で、でも、もう犯人は使ってないかも知れないし……」
「いいえ、まだ使ってるわ」
「え」
「死体の閲覧を予告するような殺人鬼よ。自分を持て囃してくれる観衆を捨てる事はできないんじゃないかしら」
「……そんな間抜けなマネするかな。目撃者が出た時点で、僕なら使うのを止めると思う。それに火蜜さんだって、そう言っていたじゃないか」
「ふふふ。君の気持ち、よく分かるわ。殺人なんて大事をする人間は、ずっと慎重が続くって思ってるんでしょ。それは間違ってない、と同時に間違っているの」
「……どういう意味です?」
「殺しを実行する時は爬虫類みたいに慎重的だったとしても、それをやり遂げた後は子供みたいに喜びたい。誰かに自慢したい。自分の心の奥底で眠っている自尊心を満たしたい。そう、必ず思うようになるわ」
「必ず……」
「そう。えてして、この手の事件を実行する犯人というのはパターンが決まってるのよ。実際は社会的地位と能力がかなり低く、回りからバカにされ続け、プライドだけが異常なほど高いから大きな不満を抱えている。それに我慢できなくなった人間だけが、社会の中でパワーを感じるために犯罪を繰り返す。暴力性と幼児性と社会性、この3つのバランスが歪であるからね。連続殺人犯の多くが子供の時に暴行か放火をしているという統計があるわ。どちらも、強く直感的なパワーを感じられる犯罪よね。そういう子供の魂が捨てきれない所を刺激すれば、反応しないはずがない」
僕は、唾をゴクリと飲み干した。
彼女の言葉には真実みがあるかも、そう感じていた。まるで、自らの事を話しているような核心的な説得力があったのだ。このヒトなら知っているかも、そう思わされる何かを彼女は心に秘めていたのだった。
火蜜さんは自信に溢れた顔で嗤う。
「あはははははははは。男の子は誰だって自分の趣味を認められたがっているわ。その気持ちを利用するの。褒めて、褒めて、褒めて、褒めて。こっちが下手に出て、彼の心が満ちたいように満たしてあげる。そうすれば全てを操れる。こっちが用意する完全なる罠にだっておびき寄せられるわ。殺人鬼だって、それは変わらない」




