#014-1 ヒミツの対面
「いいえ。この街には、本当に連続殺人犯が隠れているわ。ただ、ターゲットにされているのが、殺されても発見されない生活環境の人達なのよ。主に地方から来た一人暮らし、保証人なしの家具強制売り払いアパート住まい、派遣社員とかのね。社会から消えても問題にされず、近隣づきあいもなく、警察や世間にも気がつかれてないだけよ」
そう美女から言われた。
人目から逃れるようにして僕が部屋のドアを開くと、出迎えてくれた火蜜さんが急に言い出したのである。まだ、一歩も足を踏み入れてないし、挨拶だってしてないし、対面してから一秒もたっていない。その、あまりに唐突すぎる台詞に驚き、僕は固まるしかなかったのだ。
すると、火蜜さんがギロリと睨んできたのである。
「ちょっと、黙ってないで何か言いなさいよ」
「……いや、どうして、急に説明したんですか?」
「したかったから」
「……なら、どうして説明したくなったんですか?」
「それは、きっと貴方が、そう質問するだろうという予感があったからよ」
と言って、火蜜さんは冷ややかな視線を送っていた。
その出で立ちは美しいだろう。白い無地のシャツに、ホットパンツをはいているだけのラフな格好に、つい目が奪われてしまう。日本美人の顔立ちをしているのに少し着崩した姿にはギャップがあり、淫靡な女性の魅力が醸し出されていた。しかし、何よりも僕が気になったのは、少し拗ねたような、その表情だった。
「……あの、もしかして怒ってます?」
火蜜さんが黙ったまま部屋に戻ったので、そう僕は尋ねて後を追いかけていた。
「いいえ。私は、この街の恐ろしい現状について説明をしたかっただけよ」
「……確実に口調が怒ってますけど」
「怒ってないわ。ただ、貴方はホームレスから殺されそうになったのが偶然だと、思っているんじゃないの。でも、それは都合が良すぎ判断でしょ。論理的に考えた挙げ句の結論ではなく、結論ありきの論理性にしがみついているだけよ」
「……ほら、怒ってるじゃないですか」
「い、今のは違うわよ。今までと同じように過ごしている無自覚な君に、ただ忠告をしただけよ。まだ危険は去ったわけではないってね」
そう言って振り返った火蜜さんは、笑みを浮かべていた。
確かに、それは一理ある、と僕は思った。
現場に残された物証を目撃した直後、何者かに襲われたのである。しかも、事前に用意する必要がある注射器という特殊な獲物で殺されそうになったのだ。偶然という可能性も拭いきれないが、確かに警戒していた方が良いだろう、そう思った。
ただ、僕には一つだけ分からないことがあったので、尋ねることにした。
「……あの、やっぱり、怒ってますよね?」
「だから、怒ってないわよ!」
「いやいや、それは信じられないですよ。あからさまに怒ってるじゃないですか。っていうか、どうして怒ってるんですか。僕が何かしましたか?」
「……うるさいわね」
火蜜さんは、フゥと軽くため息を吐いた。
そして、僕に体を押しつけてきたのである。薄い布越しにでも柔らかい感触が伝わり、ホットパンツの隙間からはみ出した生足が僕の腰の辺りに絡められていく。手と手が握られ、指の一本一本を舐めるように触られていく。女の柔らかい肉に包まれるようで、僕は動けなくなっていた。




