#002-1 笑顔
「……それが、人の指?」
僕は呆然と呟く事しかできなかった。
そりゃ、そうなるだろう。だって、同級生の女子が1人で学校の近くにある森の奥に入り込み、ゴミみたいな何かを手にしたまま人間の一部だと言い出したのだ。正直、この人は何をいってんだろ、そう訝しむしかなかった。
しかし、同級生の女子、火蜜さんは僕の質問に対して再び同じように答えていたのだ。
「えぇ。間違いなく、これはヒトの指よ」
「……僕には汚いモノってだけに見えるけど」
「それは間違ってないでしょ。地面に落ちていたんだから、実際に綺麗ではないわよ」
「いや、そういう意味じゃなくて、とても人間の指には見えないって事だよ」
「ふぅん」
火蜜さんは僕の言葉に関心無いのか、また手の平に置いている何かを転がしていた。瞳孔の開いた瞳で。無表情のまま。口は半開きになっている。その不可思議な姿を普段の火蜜さんしか知らないクラスメートが見たら、あまりの違いに驚くことだろう。
「これ、たぶん冷凍されていたわね」
と、火蜜さんは更に驚かせる事を言い出した。
「は?」
「だから、冷凍よ」
「いや、だから、の意味が分からないんだけど」
「……機械で凝固させる事?」
「いや、そっちじゃないって。いくら何でも、冷凍の意味ぐらいは知ってるよ。っていうか、小学生みたいなボケかまさないでよ」
「じゃあ、どういう意味なのよっ!」
「……なんで急にキレ気味なのさ。君の沸点が分からないよ」
「少しは心を冷凍させなさいよ」
「……別に、冷凍に絡めて、上手いことを言おうとしなくて良いから。全然、成功してないし、平常心を保て的な意味からも離れてるから。っていうか、むしろ、君のことだから」
「それ、何が言いたいのか分からないわ」
「……こっちの台詞だよ」
「せりふぅ? さっきから、君は何の話しをしてるのよ」
「いや、だから、その小さい欠片を見ただけで、何で冷凍されていたって分かるの。今は凍ってないのに」
すると、火蜜さんは艶やかに笑い、手にしていた汚い何かをヒョイッと僕の顔に近づけていた。
「指の切り口」
「え?」
「この切り口を見てみて。周りの皮膚が、内側にも外側にも捲れてないでしょ。普通、ノコギリや包丁などの刃物で人間を切断する場合、何度も刃が肉と骨の間を往復する事になるわ。つまり、どうしたって皮膚が傷だらけになってしまうの。刃を完璧な垂直に入れ続けるなんて、機械じゃないとムリだからね。でも、これは、ほぼ無傷だから、冷凍されている間に切り落とされた確率が高いわ。一応、ダイヤすら切断できる水圧カッターなどを使えば同じようになるけど、そんなケースは限られてるしね」
「……は?」