#013-1 ヒミツのカオリ
正直に言うと、もう学校の図書室なんて場所は必要ないと思っていた。
だって、知りたい情報があるのならインターネットで検索した方が早いし、手にとって本が読みたいのなら大きい図書館に行った方が量は多いだろう。学校の小さな図書室に行くメリットがない、そう僕は考えていた。
だが、それは間違いであると気がつかされた。
放課後、実際に訪れてみたら、少数ながらも生徒が居たのだ。中にはカードゲームをする為に集まっている人影もあったが、殆どの人間は何かしらの本を手にしていた。わざわざ、学校の狭い図書室に集まっているのだった。
「……ふふふ。それは当たり前だろ。図書室がいらないなんて、バカな考えだねぇ。一方の立場の利便性だけで世の中を語るのは、腐った文学少年にありがちなミスだよ」
意外な顔つきをしていた僕に、そう話し掛ける女性がいた。
常に他人をバカにしている三白眼の瞳、口元のニヒルな笑み、ほのかにソバカスがあるも全体的に可愛らしい顔の作りと言えるだろう。ただ、口火がバカであったり、口癖が腐った文学少年であったり、口論が過激なので男子からはトップで嫌われている。
名前はカオリ(香檻)さん。
なぜか、その意志の強い雰囲気から、同級生なのにさん付けで呼ばれている少女であった。
「はは。キツイ返しだなぁ」
出鼻のボディブローみたいな毒舌に、つい僕は苦笑してしまった。
「別にキツくないわよ。図書室の事を勝手に見下して、偏見を持っている君が悪いの」
「……はは。そうかもね。たださ、大抵のヤツはカオリさんみたいに本が好きじゃないから、図書室の事をよくは知らないと思うよ」
「あら、別に私は本は読まないわ」
「……だって、あなたは図書委員でしょ」
「図書委員だからって本が好きってワケじゃないでしょ。その理屈で言うのなら、風紀委員は風紀が好きになっちゃうわよ」
「……そうはならないと思うけど。でも、それならカオリさんは、何で図書委員なんてしてるのさ?」
「私は本のニオイが好きなのよ。これだけ、私は幸せになれるの。だから、私は図書委員になったのよ」
カオリさんは手にしていた古い本を鼻に近づけていた。すると、それだけで恍惚な表情を浮かべ、甘い息を吐き、目をトロンとさせているのだった。紙に対して欲情している姿を見て、僕は呆れてるしかなかったのである。
「ふふふふ。それに、本と同じぐらい君の匂いも好きよ。なんとなくだけど、本と似ているのよね」
僕の首筋に顔を近づけて、そうカオリさんは微笑んでいた。美女にキスされそうなぐらい近づかれてドキッとするのだが、素直に喜ぶことはできなかった。
「……本と同じ体臭って、どういう意味だよ」
「好位があるって意味でしょ。ニオイだけ」
「ほんと、カオリってば重度の匂いフェチだよなぁ。あはは」
そう耳元で別の女性の声がした。
カオリさんとは反対の席、つまり僕の隣に座って、さっきからずっと2の腕をスリスリと触っている少女。夏みたいに爽やかな笑みを浮かべているのに、やってる事は腕フェチの行為そのものである。それは、空手の全国大会で優勝した経験者であり、クラスメートのカイナであった。
放課後、僕が図書室で調べ物をしようとしたら、一緒に付いてきてしまったのである。僕にではない。僕の腕に抱きついてきたのだった。
「……カイナも、人の事は言えないだろ」
つい僕は疲れたように呟いていた。
すると、カイナとカオリさんは笑い合っていたのだった。




