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#010-2 ヒミツの正体

「……お待たせ。それで、どうしてウチの所に戻ってきたのかしら?」


 僕は言われたとおり椅子に腰を下ろして待っていたら、やがて奥の部屋から火蜜ひみつさんは現れていた。


 態度は、いつも教室で会っているときと変わらない。

 だが、その姿を見たとき、また僕は俯いていた。なぜなら、今度はハーフパンツの下からスラリとした足がはみ出し、裸の上に白いシャツを羽織っただけというラフな格好をしていたのだ。いや、裸よりも淫靡な香りがするだろう。胸の辺りに薄い桜色の何かが透け、ほんの僅かにピーンと浮き上がっている。もう一度全てを見ているからこそ服の内側を生々しく想像し、逆に想像力がかき立てられていたのだった。

 なんで、そんな挑発してるみたいな格好なんだよ、と僕は思った。先ほど自分の身に降りかかった事件を説明する間、ずっと僕は顔が上げられなかったのだ。


「……ふぅん。それじゃあ、君は知らないホームレスから殺されそうになったというのね」


「は、はい」


「それは由々しき問題よね」


 話しを聞き終えた火蜜さんは真剣な顔つきをしていた。

 それだけで僕は笑顔になってしまった。今まで誰も自分の話に耳を傾けてくれなかったから、素直に聞いてもらった事が嬉しかったのかもしれない。1人だけでも信用されてよかった、そう僕は思った。

 ただ、密かに喜ぶ僕とは裏腹に、火蜜さんの表情は険しいモノに変わっていたのだ。


「……ねえ、その注射器って、どんなのだった?」


「どんなのと言っても、普通だった気がする」


「具体的に見た感じで良いのよ。大きかった、小さかった。プラスチック、ガラス、ステンレス。国内では大抵、洗浄できるタイプが使われているけど、それは人間に限った話し。牛や馬など昔使われていた古いタイプなら太くて固いのがある。その辺りは?」


「……えーと」


 立て続けてに質問されて言葉に詰まっていると、火蜜さんはフゥッと甘い息を僕の敏感な耳元に吹きかけてきた。


「あひゃん!」


「もう、良いわ。貴方が思い出すのを待ってたら、どれだけ視姦されるか分からないもの」


「そんなことはしてないですよ。……ちょっとぐらい、したかもしれませんけど。でも、相手を見たのは一瞬だったんで覚えてないんですよ」


「……そう言ってもね、相手はじっくりと貴方を観察していたみたいよ。一人になった瞬間を、薬物で連れ帰ろうとしたワケだし。殺すだけな、刃物や鈍器の方が手っ取り早いでしょ。たぶん、殺しに手間を掛けるタイプみたいね」


「……な、何の話しですか?」


「あら、まだ分かってないのね。それとも事実を認めたくないのかしら。こんなタイミングで貴方を殺そうとしたのは、あの連続殺人鬼しかいないでしょ」


 火蜜さんは美しい笑みを向けてくる。

 しかし、何も反応ができなかった。ただ、脳の奥から、ひたひたと忍び寄る何かの音が響いたような気がしていた。この部屋に入ったときのように、僕は再び固まったのだった。


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