#001-2 ヒミツの終わり
「……それは、こういう事をしても貴方なら誰にも話さないと思ったからよ。いえ、他人に話す度胸が無いとも言えるかしらね。ふふ、気に障ったらご免なさい」
足の指の間まで丹念に舐め終えた後、そう火蜜さんは誘った理由を教えてくれた。乱れていた黒い髪をポニーテールにまとめ、机の上に座ったまま白いソックスを足首の所まで上げている。すると、ムッチリとした太ももが持ち上がったので、何となく下腹部の隙間が覗けそうだったけど、それはしなかった。
確かに火蜜さんの言うとおり、度胸がないのかもしれない。
僕らの関係は、恋人、という程ではなかった。クラスも同じなので友達ではあるが、携帯の番号やアドレスだって知らない。休みの日にお互い顔は合わせないし、何処かに遊びにすら行った事がなかった。ただ、僕らは危険な遊びをしているというか、性的な倒錯という秘密を共有している関係に、今は過ぎないというか……。
「……まあ、そんなの、どうでも良いか」
僕はボソッと呟いた。
初めて火蜜さんに誘われた時は、ただ驚くしかなかった。だが、よく考えれば、どんな綺麗な人間にだって性欲はあるだろう。いや、むしろ綺麗でお上品な優等生だからこそ、少し歪んだ欲望を持ち合わせているのかもしれない。
僕は単純に考えていた。
正しい仮面をかぶる事に疲れた美女、それが火蜜さんの初めの印象だったのだ。しかし、それはこっちの勝手なイメージであり、人間の持つ暗黒面の一部分に過ぎなかったのだと、後日、僕は思い知った。2人きりになると、そういう意外な事を言い出すのが火蜜さんだと改めて心に刻まれたのだった。
翌日―――
下校していたら、火蜜さんが学校の近くにある森の奥にまで向かっている姿を目撃した。普段だったら外で話し掛ける事は無いのだが、その時は違った。まるで、僕に足を舐められている時のような恍惚とした表情を火蜜さんは一人で浮かべていたのだ。
何だろう。
気になった僕は、こっそりと後を付けて火蜜さんに話し掛けていた。
「……こんな所で何しているの?」
反応はなかった。
ただ、火蜜さんは茂みにしゃがみ込んだまま、何かを手にしていたのだ。木の枝が乾燥したような茶色い何かを手のひらで転がす。ころころころころ。まるで、オモチャで夢中に遊ぶ子供みたいにだまり続けていた。
「ねえ、それ何?」
僕が再び質問した後、やっと答えてくれた火蜜さんの声は忘れられない。たぶん、一生、耳について離れないだろう。聞いた事がないぐらい冷たい声で、ぼそっと呟いたのだ。
「ヒトノユビヨ」