#007-2 ヒミツの殺人
「これは、いまインターネット上に広がりつつある、データ情報交換ソフト『ファット』よ。P2P技術と携帯などのワイヤレスネットワーク技術を融合させた違法ダウンロードソフト。ただ、無線LANのIP乗っ取り機器も支援しているから、普通よりも追跡が困難になっている代物ね。違法なソフト交換はもちろん、妬み嫉み、薬物の売買、売春、隠語での殺人依頼、個人情報などの文章が大量に流されているわ」
「……はぁ」
「そして、この『ファット』で流れている大量のコメントの中から、私は特別に面白いモノを見つけたの。―――これが、そうよ」
火蜜さんからに催促されたので、僕はパソコンを覗いてみた。すると、そこには気分が悪くなるようなコメントが大量に書かれていたのだ。本当に、反吐が出そうなぐらい汚い人間の暗部に溢れていた。何だが見たくないモノを見せられた僕は悪い気分になってしまった。
ただ、泥の中に隠れた花、とでも言えば良いのだろうか。
その中の一つに、本当に微かな違和感を感じるものがあった。悪意が濁流のように溢れている中で、たった一人だけ普通の書き込みをしていたのだ。
『今日、また赤い花を植えました。byチギライ』
と、それだけ。
それだけの書き込みである。
わざわざ名前まで明記しているが、どう見ても普通にしか思えなかった。確かに大量の悪意で溢れているのだから、逆に普通なコメントの方が目を引き寄せるというのは分かる理屈だろう。だが、まさか、これを書いたのが殺人犯だとでも言うのだろうか、そう僕は思った。
「……あり得ませんよ。どう見ても、普通の文章じゃないですか」
僕は本音を口にした。確かに違和感を感じるも、それは他のコメントと比べた場合である。そういう意味を込めて伝えると、火蜜さんは笑い返していたのだった。
「ふふ。貴方には、これが普通にしか感じられないみたいね」
「ええ、まあ」
「それは、貴方が彼の秘密に気がついていないだけよ。私には分かるわ。彼には素晴らしい秘密があり、それを他人と何度も共有しようとしている。誰もやらない秘密をネット上で打ち明け、まるで血を分けたように深い絆を何度も作ろうとしている。羨ましいわ。その相手が居ることが。それだけの秘密があることが。ふふふ」
火蜜さんは薄暗い顔で笑っていた。
それは昼間、学校で見せている表情とは異質であり、全く別人の血が流れているような危うい表情をしていたのだった。顔の筋肉が作り上げる幻惑なのか、それとも彼女の歪な魂が魅せているのだろうか……。
僕には分からない。
ただ、1つだけ、僕は火蜜さんの本質に気がついていた。




