#006-2 話し
「……じゃ、じゃあ、あの場に犯人もいたって事ですか。あの時、直ぐ近くに」
僕はゾッとしていた。何だか得体の知れないモノに触れてしまったような嫌悪感と恐怖感で内蔵が小さくなるまで絞り上げられ、額には茶色い冷や汗がにじみ出していた。
だって、考えてもみてくれ。
人のユビが消えたタイミングは、僕が警察を呼びに行った5分ぐらいの間しかない。それが狙えたと言うことは、殺人犯によって現場は見張られていたという事になるじゃないか。そうじゃなかったら、僅かな隙間を縫うように物が消えるはずもないだろう。
見られていた。
全てを。
人殺しの瞳に。ヒトの指を手にした所を……。自分の顔を……。知ってはいけいな事実を自分が知ってしまった瞬間を、犯人にジッと見られてしまったのである。
マジかよ。
目撃した意味を考えるだけで、僕はイヤな震えが体の芯から沸き上がっていた。視界がゼロに等しい暗闇から何かが覗き返しているような、得体の知れない悪寒が抑えられなかった。
「で、でも、ですよ。森の中で小さなモノを発見できる確率は低いといういのなら、火蜜さんどうなんですか。どうして貴方は、小さなヒトのユビを見つけられたんですか。探し回っている感じでも無かったし……」
廻る廻る苦しみに耐え、やっとどの奥から絞り出した質問がそれだった。すると、火蜜さんは、今まで見たことがない歪な笑みを浮かべていた。目の中にある黒点が激しく伸縮を繰り返し、頬を赤く染めると自らの下腹部をモゾモゾと動かしていたのであった。
「もちろん、私には分かっていたわ。だから、あんな汚いところに出向いたんだもの。あそこに、彼の大きな秘密があると初めから知っていたのよ」
「……彼?」
「ふふふふ。そうよ。彼は特別な隠し事があって、それを皆と共有している。貴方が私の足を舐めているような、小さいヤツじゃないわ。この街を覆い尽くしてしまうような大きい隠し事」
「火蜜さん……」
「私は、それが羨ましい。彼が死ぬほど羨ましい。私も隠し事を誰かと共有して、大切な友達を作りたい。早く秘密を分け与えて友達が作りたい。隠し事がある本物の友達を。ふふふふ」
あの優等生である火蜜さんが、表情を崩すほどに笑っていた。まるで、それが本当の友達の証であるかのように、それを激しく求めていた。友達になったから秘密を打ち明けるのではなく、秘密を打ち明けたから友達と言っているかのように……。
とても歪な感情を、火蜜さんは剥き出しにしていたのだ。
「あは、あはは、はははは。あんな大きな隠し事を誰かと分かち合える日が来るなんて妬ましいわ。永遠の友達が。もう、離れられない友達が。かけがえのない友達が。ああ、なんて素晴らしい言葉の響きかしら」
「……な、何の話しをしているんですか」
混乱している僕が尋ねると火蜜さんがピタリと止まり、油が流し込まれたように鈍く輝いている黒い瞳を向けてきたのだ。それを見たとき、僕の心臓がドクンと跳ねた。一瞬で口の中がカラカラに乾き、全ての水分が消え去ってしまったかのような錯覚すら感じていたのだった。
火蜜さんは言う。
「彼は、大きな隠し事を予告しているのよ。定期的に、死体という作品を私達に見せてくれることでね。あのユビは、その忘れ物よ。私が彼の大きな隠し事に気がつき、いち早く訪ねようとしたから慌てたのね。だから、あんな感じで残っていたのよ」
「……何の話しを」
「この町に隠れている連続殺人犯が、密かに死体の展覧を予告している、って事よ」
ぞぞぞ。
足下から蟻がはい上がってくるような寒気を、僕はゆっくりと感じていたのだった。




