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Drop→Out!  作者: ビターチョコレゐト
第一章 かみのおとしもの
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かごのとりと終わらない宿題参


「え…………?」



俺はそれしか言えずに教室のドアのところでまるで田んぼに刺さっているつかえない案山子のようにただ突っ立ってることしかできなかった。ちなみに俺が白い何かだと思ったのは砂糖菓子のような香りを振りまきながら空中を舞った長くて真っ直ぐな漂白されたような白い髪の毛だった。で、その髪の毛の持ち主は当然ここにいるわけで。これまた白い肌にはうっすら青い血管が透けてみえており、どこか儚げな少女の瞳はまるで零れ落ちる鮮血のように赤い。この特徴的な容姿。脳内で素早く検索をかけ、脳内データベースと合致したクラスメイトの女子の名前を呼ぶ。


「た……小鳥遊……っ、さん……だっけ……?」


呼びかけた声はしりすぼみになり、彼女の方に突き出しかけた手も中途半端に宙に浮いたままになり、気まずさを誤魔化すために俺は小さく笑う……がどうにも顔が引きつっていような感覚がある。そして、ひらひらと波にもまれて揺れる海草のように小さく手を振る。そこで彼女は初めて俺の存在に気がついたらしく、ギ……ギ……ギ……とでも音がしそうなぎこちない動作でじょじょにこちらを見る。何だろうこの緊張感。俺は普通なら女子とでも気軽に話せるスキルを持っているが、こう夏の教室で女子と二人っきりというシュチュレーションは体験したことはない。ありえない。


「…………だれ……?」

小首をかしげつつ小鳥遊さん(暫定)が儚げな声でそうつぶやく。


「……」

めのまえがまっくらになった。これは黙るしかあるまい。


(……俺……そんなに影、薄かったけ……)


軽く泣きそうになる。下くちびるをきつく噛み、耐える。結構こういうのはクるものがある。こう、腹に腹パン入れられたみたいな。こう、精神的にこう……とにかく結構きついしクるものが……。とにかく頑張って相手に問いかける。


「えっと……椿木なんだけど……知ってる、かな? 一応俺お前と同じクラスなんだけど……」

心はノックアウト寸前(言い過ぎ)のボクサー、足は生まれたての小鹿のようにガクガクしている。えーとなんでこんなになったんだろう。うん。


「椿木……君……?」

小鳥遊さん(暫定)が再び儚げな声でそう言い、小首をかしげる。まるでかわいらしい小鳥のような仕草だ。

「そう、椿木」

俺もつられて小首を傾げる。うん。分かってるこんなブサイクがやっても絵にならんことは。ただなんかつられただけなんだ断じて。

「わたし……小鳥遊。……小鳥遊、こころ……」

うん、知ってる。喉元までその言葉を飲み込み、俺も相手に倣ってとりあえず自己紹介をする。入学してからもうしばらくたっているのに自己紹介とは不思議な感覚だ。

「俺、椿木蓮。よ、よろしく……?」

何故か言葉の末尾が疑問形になったか不明だが、おれは再び小鳥遊さん(確定)の目の前に自らの手を差し出す。小鳥遊さん(確定)はその手を何かの研究のサンプルかなにかを観察するような精緻で無機質な視線をもって眺め、それからそろそろと自分の手を緩慢な動作で差し出すとふわっと俺の手を握った。正しくは「触れた」の方が正しいかもしれない。感覚的にはそれぐらいであった。


「……よろしく」



それが俺と小鳥遊の第一次接近遭遇だった。



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