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Drop→Out!  作者: ビターチョコレゐト
第一章 かみのおとしもの
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零 「かみのおとしもの」

※現実の世界と酷似しておりますが、実際の人物、団体とは関係ありません。

――――それはとある日の会話。



「ねー昨日のテレビ見たあ?」

「あ、見た見た! あれチョーヤバクない?」

「あ、ここらで最近なんか起きてるんでしょー? 事件」

「そうそう、連続殺人事件だって! やばいよねーっ!!」






いつもの会話。いつもの時間。いつもの景色。人々のざわめき。人混みの熱気。それは当たり前すぎる日常が性懲りもなく繰り返されている証拠。少女たちは周りの喧騒に負けないくらい騒がしい声で他愛のない会話を紡ぎ、それは何の違和感をももたらすことなく喧騒の一部となって溶け込んでいた。






「それよりさあ、昨日のマジカッコ良くなかった!?」

「あ、それ見たーっ! マジカッコ良かったよね! ヤバかったよね!」

「うんうん! ホントカッコ良かった!」

「だよねー。そういや、今日さ、『アレ』の日じゃね?」

「あっ、そーだ! 忘れてた! 教えてくれてありがとートモ!」

「だるいよねー」

「なんか、実験台にされてるみたいじゃない?」

「モルモット、ってか?」

「そうそう」



――――「……『Drop』、か」




小さく吐息混じりの声で唇から紡ぎだされたその一言は、まるで水の雫が滴り落ちるかの如く地面へと落下していった。地面に落ちた水が夏の暑さと人々の熱気によってジュワッという音とともに消えるように、人々の合間を縫って落ちたそれは誰にも、近くにいた友達にすら届かぬまま、夏の暑さに溶けて消え、言葉の残滓はビル風によって空へとのぼり、消えた。


――――そしてそのあとにはいつも通りのざわざわとした喧騒が残されていただけだった。



**


同日。


「やっぱさあ、俺は思うわけだよ。この一度しかない高校一年の夏、やっぱりさあ……こう掛け替えのない思い出! みたいの作りたいじゃん? みんなで海に行って恋のアバンチュールみたいなさ! こう、初体験は夏でした! コングラッチュレーショーン!! みたいなね、分かるだろう岸谷君」

「激しく同意」

「でさあ、こんなあつっくるしい教室で、将来何に役立つか分からない意味不明なモノを受けているより、海でバケーションしたほうが遥かに有意義じゃブゲラッ!?」

「!! チョークが飛んできた……だと……!?」


「はーい、そこ私語しなーい」


現在節電の名のもとにエアコンは二十八度設定、むさ苦しい男どもがぎゅうぎゅうに詰まった教室内で、揃いもそろって大量の汗をかき、スポーツ飲料等を飲みながら不真面目な、いかにもやる気ありませんといった死んだ魚のような目で補習を受けている。ちなみに黒板には到底理解不能な数式やら図やらが細々と書いてあり、この暑さの中この内容を理解している者が一人でもいるか疑わしい。


「くっそ……アイツチョーク投げつけてきやがった……」


赤くなった鼻を押さえ、涙目で教師を睨むのは俺こと椿木蓮(つばきれん)。現在、俺は黒板に書いてある文字をヒエログリフを解読しているような気分でノートに写している。もちろん内容はサッパリだ。


「あれほどのチョーク投げは生まれて初めて見た……」


友人の怪我(かどうかは不明だが)をよそに教師のチョーク投げの技に感動しているのは俺の友人的な岸谷恭太(きしたにきょうた)である。ついでにこいつもいわずもがな補習組である。


「恭太! お前はなんて友達甲斐のない奴なんだ! 俺に彼女が出来た時後悔してのた打ち回っても知らないからな!」

「貴様に彼女など出来るわけがない。出来たら俺はアニメを見るのをやめる」

「くっ……き、貴様……」


「はーいそこ廊下に立っとけ」


**


ミーンミンミンミンミーン。


分かりやすく擬音で表現してみたが一歩外に出たらセミが大合唱していた。セミの鳴き声が頭上の木からシャワーの如く降り注ぐ中、俺は汗をぬぐう。湿度の高い日本の夏のまとわりつくような、粘性のあるぬるま湯の中を泳いでいるような感覚に次から次へと汗が噴き出してくる。


「で、お前達は結局補習が終わるまでずっと立たされていた、と」


呆れたような雰囲気でそういうのは、さっき俺達と合流した栞林檎(しおりりんご)。紫がかった黒い艶のある髪を細めのツインテールに結んでいる。前髪は眉にかかる程度のぱっつん。中性的な口調だが、容姿や名前は女のものである。いや、生物学上は紛れもない女だ。栞は紫がかった黒いツリ目の瞳でやや非難するような視線を投げて寄こした。ちなみにこいつは補習の参加者ではない。部活があったらしい。


「うるせー。だいたいお前はいつも授業寝てる癖に成績いいとかありえねーんだよ」

「蓮に同意。なぜ、授業中いつも惰眠をむさぼっている栞の方が俺達より成績がいいとか理解不能」

「うるさい」


栞の小柄な体が動くたび、それに合わせてツインテールが不器用な双子の曲線を描く。せわしなく動くをれは不規則な振り子時計の軌道を連想させた。ゆらゆら、と動くそれは地面に影を落とす。いつも通りの会話を繰り返しながら俺達はいつも通りの道を歩く。夏の暑さにより、ゆらゆらと地面から立ちのぼった陽炎が景色を歪に歪ませた。




















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