昭和時代の「出会い」
読者の方へ
先ずは立ち止まっていただきありがとうございます
この作品は私の記憶を素材としたノンフィクションの自伝です
宜しければ立ち寄ってみて欲しいです
ーこの街が私の少年を卒業させたー
新宿(歌舞伎町)は遊び方さえ間違えなければ危険な街では無い。
それは今も昔も、大人にとっても子どもにとっても
私にはナンパに明け暮れた一時期があった。
時代は、昭和60年のすこし前の話だ。
私のやり方はワンパターンだった。
ストリートでなんぱを成功させるには一定の法則があり私はそれを体感で学んだ(勝負は声をかけてから30秒)
声をかけ、相手がこちらのパーソナルスペースに入ってきてくれれば
何とか会話に持ち込めれば、という思いだ。
きっかけの言葉は正直何でもよかった。
その場のノリで浮かんだ一声
そして、引き際の一言は決めていた。
声をかける対象は先ずは歩みの遅い子にした。
バッグのチャック、肩ひものかけ方、靴紐もチェックした。
声をかけ、立ち止まらせ、店に誘った。
話をして気になる子がいたら別れ際に自宅の電話番号が書いた紙を渡した。
これは女の子が男にしていた行為を真似した。
相手の連絡先は聞かなかったので、電話をかけてくれなければそれきりになった。
時代が移り携帯電話を手にしてから
もうその頃には、声がけはしなくなっていたが
私はこのスタイルは変えなかった。
上手くいったのかと問われたら
「ストリートではほとんどありません」
と答えるしかない。
日中に10人に声をかけて、2人足止めできればすごい成果だった。
夕方以降の足止めはまず無理
そんなものだった。
私はフォルムに自信がないので
髪型をチェッカーズに寄せ、刈り上げて前髪は下ろしたり上げたりしていた。
ようやくキャッチできた子と話しているとき
後から背の高い大柄な男に割り込まれ競争になった。
その男は六大学に通っていたらしく、結局その子は奪われてしまった。
どの世界にも上には上がいる。
ナンパの達人でもないので苦労した。
それでも、私は人との会話には慣れていたので
自然と会話に磨きがかかるようになり、引き際の一言が功を奏すようになっていった。
記憶の舞台を屋内に移す
新宿(歌舞伎町)には、私が覚えているだけで3軒のディスコがあった。
『ニューヨーク・ニューヨーク』『ゼノン』そして『GBラビッツ』
どの店も独自のコンセプトをもち
「男女の出会いの場所」として「リアル」に存在した。
まさにその時代の「若者」たちの楽園であった。
ディスコでは街中のやり方は通用しなかった。
ここに遊びに来ている女性たちは
見ていないふりをして男たちの視線をすべて見抜いていた。
踊りながら、飲みながら、
誰が「本気」で、誰が「手当たり次第」なのかを冷静に観察していた。
私は、決めた一人か二人の子にしか声をかけなかった。
ストリートと比べると効率は悪く見えるが
ディスコのチークタイムでは少なくとも手が繋げた。
『ニューヨークニューヨーク』は個性的でお洒落を競う男女が多く
服をあまり持っていない私は気が引けて通わなかった。
『ゼノン』は仲間と通ったが、年齢層が少し上で
踊り中心の落ち着いた雰囲気だったので声かけには向かなかった。
仲間が女の子に声をかけた時もあったが
「ナンパなら他行きなよ」と突き放されていた。
上手くやっていたのはやはり年上の男達だった。
部屋に帰りたくないと思った日は
私はチークのあるその店によく通った。
フリードリンクがカラフルなジュースだったから未成年が多かったはずだ。
ともかく「ナンパならGB」と言われていた。
チークタイムは一晩で2回のチャンスだったろうか。
チークと分かってから駆け寄る男もいたが
私はそろそろかなという時に、
タイミングを測り、ダンスフロアやお目当ての子の側に居るようにしていた。
店側の計らいで、違う曲を連続でかけてくれる日もあったと記憶している。
ダンスフロアは、曲が響くので会話はスムーズに出来ない。
踊りながら女の子に聞こえないような声で話しかける。
意気の合った子は髪をかきあげ耳を口元に寄せてくれた。
「今日はチークが長いね」
「そうなの?」
そんな会話を交わした。
ディスコのチークタイムは勝負を決めた者に与えられるご褒美だった
今でも脳の奥のほうが覚えている。
突然のサイレンと落ちる照明
手を差し出した瞬間の彼女の視線
客達の高い歓声
静まるフロアにイントロが流れる
映画『ラ・ブーム』の主題歌
俳優のAlexandre Sterlingには叶わないが
私はこの曲と相性が良かった。
翌朝は2人手を繋ぎ歩いた
ゴミを漁るカラスに怯える女の子
ホテルの壁にはヒビがあった。
でもその子との関係が終わるまで
私は同じ店には顔を出さなかった。
ある日久々に実家に帰った。
母は喜んで迎え入れてくれたが父の視線が気になった。
父の居ない時、母から告げられた父の言葉。
「パパがね あなたが遊び人の顔になってしまったって言うのよ」
「髪型が気に入らないんだよ」ととぼけた。
父は人の顔のことを口にしない人だった。
背中から切られた気分だった
程なくして盛り場でではなく
長く付き合えそうにおもえる女性と出会えた。
後年、初めて出会った時の私の印象について
そのひとが友達に告げるのを隣で聞いた。
「夏だったからかなぁ」
「この人、陽の光に負けてるな」
「そんな雰囲気が良かったの」
私の少年期は終わった。
その女性との付き合いは、その後8年続いた。
最後までお読みいただいた読者の方には貴重な時間を割いてもらえたことに感謝を申し上げたいです
その女性の記憶については、下記で更新中です
タイトル:薄暮がすきなひと 作者名:・・ちゃんがんばれ
https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n7843mu/
それではまたお会いしましょう




