キッチンへ転生
掲載日:2026/05/25
左耳を手前に回して
右耳の耳介を引いて
その奥にぽっかり空いたのは
夜を思わせる大きな口
呼吸は止まり沈黙を飲んでいる
指の間に挟まった白髪は
華氏一千度の炎に焼かれ揺れ
二房にわけて結んだ髪束を引けば
隧道のなかの隕石がくらくら回る
もう一方の髪束を引けば
両腕のないごろりと横たわった
全裸の女が気づけない微光を
全身から発散して照らしている
両目の網膜は水銀に覆われ
水晶体には飛び散った涙のしぶき痕
五臓六腑が丸く並んだ核から
青く熱いオレンジの胆汁を吹き出す
わたしは幽玄となり
世界を彷徨いながら
顛倒した平穏であった




