第十七話 ゴブリン集落
受付に別れを告げて、冒険者ギルドにある初期武器の棚を眺めていた。今はゲイルも武器を持っていない。旅用の装備一式と野営用品、食料もそこには置いていた。ロランも今はナイフしかないので初期用の武器をもう一つ買うことにした。
「ロラン、お前は短剣か?いいじゃねぇか?」
「俺は、これだな!」
ゲイルが手にしたのは木製の棍棒だった。軽そうにロランの横でブンブンと振り下ろしていた。そのお店で沢山の武器を眺めて、色々試した結果である。パワー系のゲイルにはかなり似合っている武器を選んでいて、ロランは妙な安心感に包まれた。
「ここ、干し肉もあるみたいだな。買おうぜ!初期武器だから、安いし、俺がお金出してやるよ。」
「え、いいよ~。自分で出すからいいって。」
「いいから、いいから…。」
ゲイルは無理やりだが、お金を出してくれた。旅に必要なゲイル用の水筒も購入し、全部で銀貨2枚となった。
「ゲイル、お金あるの?宿代も払わないといけないし、ご飯代も…。」
ロランは、ゲイルの事が心配になっていた。ギルド登録もして鍛錬施設利用料も払っていたので、もう残金が少ないことを知っていた。
「一応、大丈夫だ。でも、稼がないとギリギリだな。アッハッハ」
ゲイルは楽観的だった。もはや、このギリギリな生活を楽しんでいるかのようだった。ロランはすぐに不安になるのだが、やはり性格はまるで逆だという事を実感した。
早速、二人は農場へと旅に出た。いよいよ、本格的に討伐の依頼を受け、ゴブリン退治に向かう。ロランは初めての討伐依頼で不安も抱えていた。緊張と不安で押し潰されそうになりながら、街の門をくぐって、森の方へと向かっていった。森の中にも、もちろん魔獣は住み着いている。目的地に着くまでに魔獣に出会わないように心で願いながら森を進んでいた。
ゲイルは棍棒を振り回しながら、先頭を切って歩き続けていた。なんだかワクワクしているようだ。
「ロラン、なんか楽しいなぁ。早く魔獣出てこねぇかなぁ。」
「え?出てきたら嫌だよぉ~。怖いじゃん!」
二人の考えていることは真逆だった。ロランは怖いながら付いていき、この二人の距離感はまさに兄弟のような風格を漂わせていた。
しばらく歩いていると、川が見えてきた。そこで少しだけ休憩することにした。
「ふぅ…ちょっとだけ休憩するか。干し肉食べておこうぜ!この後の討伐でエネルギー持ってかれるからな。」
「そうだね。少しでも蓄えたほうがいいよね。」
二人は干し肉をかじり、ゴブリン討伐について話し合っていた。農場に向かい、状況を確認すること、そして、依頼者に会って話もしたいと思っていた。集落の場所もある程度知る必要があった。
休憩が終わり、再び出発をしたゲイルは相変わらず元気に、そして、楽しそうに歩いていた。
「もう、そろそろ着くぞ!あそこの農場が依頼主の農場だな。」
農場に近付くと広い畑に建物があり、一般的な農場だった。ただ、畑は作物が踏みつぶされ、完全に荒れ地になっていた。植物は枯れ、緑の葉っぱはちらほら見えるだけで、ほぼ、土も乾いていた。
農場の建物の扉をノックして、声を掛けてみた。
―コンコン…コンコン…ギッ
扉を開けて出てきたのは白髪まじりのおじいさんだった。ロランは緊張しながら、挨拶をした。
「あの~、冒険者ギルドから依頼できました。ゴブリンの集落の場所を教えてもらえますか?」
「あぁ、あっちの方向に8体ほどのゴブリンがいるんだが、お前ら二人か?」
「はい!8体かぁ。結構いるじゃん!ワクワクする!」
「二人で大丈夫か?無理するんじゃないぞ!難しかったら帰って来い!」
「大丈夫だよ。やっつけてくるから待ってて。」
そういうと、ゲイルは走り出し、そのゲイルの後を追うようにロランも続いた。森の中に入ると、小さな集落が見えた。
「ギィ…ギィ……ギ、ギィ…」
ゴブリンは鳴き声を響かせ、周りを警戒していた。ゴブリンを目の当たりにしてロランは少し震えていた。
「ロラン、ここからはそっと近づくから、音は出すなよ。」
ロランは静かに頷き、じりじりと集落に近付いた。見える範囲で確認出来ているのは5体だった。すると、ゲイルが小声で話しかけてきた。
「残り3体の姿が見えないな。森にでも行っているのか?まぁ、いい。いいか、ロラン。俺がひきつけるからその時にゴブリンを倒してくれ!俺から離れるなよ。俺も倒せるやつは攻撃して倒していくからよ。合図を出したら突撃するからな。」
ロランに緊張が走った。買った腰の短剣に手を置き、準備をする。心臓が口から飛び出しそうだった。だが、ゲイルと一緒ならなぜかやれそうな気になる。不思議な感覚だった。そして、ゲイルの合図が出た。
「行くぞぉ!!」
ゲイルはゴブリンの前に飛び出し、棍棒で叩きのめした。まず一体、倒した。その音で他のゴブリンも戦いに加わった。ゲイルはゴブリンの攻撃を上手くかわしながら、残り4体を森の中へ引きつけていく。棍棒を振り下ろす音がブンブンと響く。そこでロランはゴブリンの背後へ回り、後ろから短剣で背中を切りつけていった。弱ったところを、ゲイルが棍棒で攻撃し、ゴブリンは黒い靄を出しながら、消滅。そして、魔石と素材を落としていた。
「ヒヤッとした…。やった…。」
「あぶない!!!!!!!!!!!!」
と、その時、ゲイルが激しく叫んだ。ロランの背後から再びゴブリン3体が現れた。かわすにはもう間に合わない。慌てて、ガンテが応戦する。体当たりのスキルで、ロランを吹き飛ばし、ゴブリンの攻撃を避けた。
「大丈夫かロラン?そっちの一体お願いできるか?」
「あぁ、ありがとなガンテ!ゲイルを助けてやってくれ。」
ロランはこの一戦で、自信が付いていた。怖さよりもゲイルの後ろに隠れてばかりいるのが耐えられなかった。ゲイルもガンテも一体のゴブリンを相手に必死で戦っていた。ロランも負けたくなかった。この1一体は是が非でもロラン自身で倒すと心に決めていた。足の震えもある。しかし、負けるわけにはいかなかった。
短剣を構え、ゴブリンと対峙する。そして、一気にロランはゴブリンに向かって走り出した。ゴブリンはロランを殴ろうと棍棒を構えた。その瞬間、脇腹がガラ空きとなり、ロランの短剣はゴブリンの心臓へと突き刺さった。
「ギィャー……」
ゴブリンの雄たけびと共に戦いは終止符を打った。ロランは必死に戦った。そして、一人で倒す事が出来たのだった。
ゲイルもガンテも無事に倒す事が出来たようだ。
「ふぅ…焦った…ロラン、大丈夫だったか?」
「う…うん…。」
放心状態だった。ロラン自身がゴブリンを倒したことを信じられなかった。集落を壊滅させたことで依頼は完了した。緊張の中の戦いは終わり、ロランは安堵の表情を見せた。その場で座り込み、しばらくは動けないでいた。




