自分の言葉で
今日も疲れた…満員電車、大量のタスク、理不尽な上司の怒号、クレーム、残業。
金曜日の終電まで仕事をし、土日は死んだように布団からでられない。
私って、なんの為に仕事してるんだろう…
ふと見てしまうスマホの通知履歴
ビクッ…と肩が揺れる
たまに流れてくると思ったら、上司からのミスの指摘連絡。
こみ上げるものをなんとか押し殺し、終電のなくなった私は歩いて家に帰るしか無かった。
「もう限界…」
辞めればいい話。
それができないのは、私がいなければ回らないとか、責任感が強いとか、そんなカッコの良いものではない。
ふらふらと朦朧とした意識の中目に入ったのは、ビルの大型液晶に流れる最近のスキャンダル。
そんなもの今見せてくれるなよぉ…
そう思うが、無慈悲に流れるその映像はまるで私自身の投影。
あぁ、もうやめよう…
明日は金曜日。せっかくだから明日は美味しいものをたくさん食べて終わりにしよう。
妙に静かな朝、いや、気持ちが違うんだ。
いつも通りの身支度だが…ちょっと小洒落にしようか…
そう思ったが、やっぱりやめた。
満員電車、タスク、上司、クレーム
____今日は残業はしない。
上司には私用があると言って、会社を出た。
いつもと違う外の明るさに、変に気持がドキドキしてしまった。
普段歩いている帰路が明るいネオンに染められている。
そんな中、ほわっと淡い灯りが脇道で目を引いた。
裏路地なんて普段は絶対に入らない。
いや、入れない。
それなのに今日は好奇心に負けてしまって…
まるで神隠しにでもあってしまったかのように…
自然に…その細道に足を踏み入れた。
『いらっしゃい』
店には女性が一人新聞を広げて佇んでいた。
キリっとした顔立ちなのになぜか柔らかさがある。
『好きなとこに座っていいよ』
新聞から目を離さない。
不思議な人だ
「あの…メニューって…」
『食べたいもん言ってくれたら作るよ』
はぁ、こういうお店もあるんだ。
普段はチェーン店しか入らないため、こういった個人のお店は少し落ち着かない。
「何でもいいんで、暖かいものください。」
店主は顔をあげ、ガス台の前に立った。
いい香りが漂う。
コトっと置かれたそれは…
お吸い物だった。
「…」
何でもいいとは言ったけど…
出汁を効かせたそれは優しく身体に染み渡る。
音楽もない、会話もない、作り終わった店主はふたたび新聞を開いて読み始める。
パサっと新聞をめくる音だけが響く。
『___何?言いたいことあるなら言って』
「……」
『作ってほしい物あるなら言って』
「…っ」
まるで全部わかっているようなその口ぶり
喉元まできて飲み込む…その繰り返し
『自分で言って』
「___チャーハンが食べたい!!あと、唐揚げ…っにんにくめっちゃ効いてるやつ!!明日休みだから!!口の中臭くても関係ないもん!」
やっと出てきた言葉は、偽りのないただの欲望。
『そこまで聞いてねぇ』
そう言ってニヤッと笑う店主は少し嬉しそうだった。
ジュワっと揚げられた唐揚げ、湯気が立ち上がるチャーハン…夢中で食べた。
チラリと店主を見ると再び新聞に目を落としている。
ほんと、不思議な人。
お勘定を終え、お店を出た。
長いこと居座った気がしたが、辺りの景色は入店時と変わらず、明るいネオンが輝いている。
「今度こそ、終わりにしよう。」




