それは私の理想の家族だった ~エルフから産まれたヒト~
『家族』とは。
呆然と、座り込む。
『あなたさえ産まれなければっ』
『お前がエルフだったら俺たちは死ななかった』
「ねえ」
喉から言葉を出す。
誰も返してくれないのに。
『この2人』は死んでしまったというのに。
もう、誰も叩いてくれない。
誰もしかってくれない。
後を追うつもりはない。
けど、どうしたらいいのか、私には分からない。
呆然と、座り込む。
両目を開け、もう2度と動かない『それら』の前で。
私の理想の家族は、愛し合う家族だった。
無条件で愛し合う、喧嘩をしても自然と仲直りする。
それも、もう2度と叶わない。
だって、1人きりになってしまったから。
「いやー、領主様もツイてますなあ!
エルフとエルフの間から産まれた人間! 種付けをすればもしかしたらエルフが産まれるかもしれませんよ!
歳もまだ13歳らしいし、本当にツイてます!」
ゲヘヘ、と汚ならしく笑う商人。
「こらこら。
僕はそんなつもりじゃないよ。
救いたかったから救った、それだけ」
「そうですねえ! エルフが領主様の息子方から産まれれば、この土地も救われるにちがいない! 素晴らしい!」
はあ、と息を吐く男性。
メガネをかけ、細すぎず、太すぎず。
賢そう、優しそう、表情や雰囲気から、私は考える。
40代か、30代か、それくらいかもしれない。
商人は、知らないし、もう興味ない。
太ってて、言葉も声も笑い方も、何もかもが汚ならしい。
あの『檻』の中も、商人みたいに汚ならしかった。食事も、トイレも。
今、私は『お城』に向かっている。
もう、どうなってもいい。
何をさせられることになっても、気にしない。
『2人』は死んだし、『理想の家族』もあり得ないのだし。
種付け、の役なのかもしれない。
「所で貴女」
私、のことだろうか。きちっと反応しろ、と汚ない商人が小突いてくる。
「こら、そんな乱暴にするんじゃない。
いや…、名前がわからなくてね。この商人も、番号しか言わないし。
あるんだろう? 名前」
「なまえ」
「喋れないんじゃないですか!? エルフとエルフから産まれた失敗作ですよ!?」
「…まあ、アイツに考えてもらうのもアリかもしれないな」
よくわからない。
「初めまして。
今日からユウ様専属のメイドをさせていただきます」
「うん」
私は頭を下げる。
ユウ様は、本から目を離さず適当に応える。
第七王子、末っ子らしい。
領主の息子も王子と言うのか、私にはわからないけど。
メガネをかけ、賢そう、暖かそう、けどどこか冷たそう。領主様に似ているけど、どこか違う。
15歳、らしい。
『アイツは大人しい奴でね。本をずっと読んでばっかで。祭りにも行かないし、友達も、いるかどうか。
できたらお世話をしてあげてほしい。他のメイドだったら文句をアイツは言うけど、貴女は、そこは、ほら、特別だし。
エルフとエルフから産まれたヒト。貴女にしかできないこともあると、僕は思うよ』
領主様の言葉を思い出す。
冷たい所もあるのかもしれない。
私にしかできないこと、それは、よくわからない。
沈黙が少しあった後、
「あれ?」
不思議な声をユウ様は出す。
そして、初めて私に顔を向ける。
「名前」
「なまえ」
「そう。
名前ないの?」
言おうとするけど、思い出す。
『アイツに考えてもらうのもアリかもしれないな』
さっきの、領主様の言葉。
その『アイツ』は『この方』のことなんだろう。
「参ったな。
エルフとエルフの間から産まれたヒトって、そんな扱いヒドイのか」
「いや、そんなことは…」
いつも叩かれたり怒鳴られたりしてたけど、認めたくなくて、つい。
理想の家族じゃなかったけど、家族ではあったから。
再び、沈黙。
「…じゃあ、ユリ、でどうだろう。
うん、あんまり名付けはしたくないんだけど、ユリはいいと思う」
「ゆり」
「ユウと、ユリ。
なんか興味がわかないかな?」
ユウ様は恥ずかしそうにしながらも微笑み、
「ようこそ、家族へ。
よろしくね」
「かぞく」
「ユリも家族。
家族は愛し合う暖かいものだから、楽しんで働いてくれたら、主人のぼくとしても、皆も、嬉しいかな」
私は、泣きそうになってしまう。
家族は、愛し合う、暖かいもの。
お母さんとお父さんは、愛してくれなかったけど。
『この家族』は愛し合うのが当たり前で。
それは、私が産まれたときからずっと欲しかったもので。
2人には悪いけど、ようやく手に入って、なんか泣きたくなってしまった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!




