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第33話 奇跡の終焉

 静まり返ったヴァンスの正門前。

 松明の火に照らされた城壁の上で、数人の守備兵が眠そうに目を擦っていました。

 そこへ、闇の中から白銀の馬に跨った一人の少女が進み出ます。

「……ハルガルドの将兵に告げます。門を開きなさい。降伏するならば、命までは奪いません」

 マリエールの凛とした声が夜の静寂に響きました。

 しかし、城壁の上からは返事の代わりに、嘲笑混じりの怒声が返ってきました。

「何を寝言を! こんな時間に小娘一人が……」

 その言葉が最後まで紡がれることはありませんでした。


(……今ここで終わらせなければ、この街でもまた血が流れる)

 マリエールは限界に近い肉体を精神力だけで支え、純白の剣ウリエルを高く掲げました。

「道を、開けなさい!!」

 夜闇を真昼のような光が切り裂きました。

 凄まじい衝撃音と共に、ヴァンスの堅牢な城壁は紙細工のようにズタズタに引き裂かれ、轟音を立てて崩落しました。

「な、なんだと……!? 城壁が、消えた!?」

 パニックに陥る敵軍。

 その隙を逃さず、背後に控えていた一万二千の王国軍が怒涛の勢いで突撃を開始しました。

「突撃! 聖女様に続けッ!!」


 勝利の咆哮が響き渡る中、マリエールだけは異変に襲われていました。

 剣を下ろした瞬間、視界が急速に色を失い心臓が爆発したかのように激しく波打ちます。

(ああ……少し、使いすぎたかしら……)

 神威の行使は、その身に宿る生命力を直接削る行為。

 短期間での連発は、14歳の少女の肉体が耐えられる限界を、とうに超えていたのです。

 マリエールの手が手綱から離れ、その小さな体が、ゆっくりと馬の背から傾きました。


「マリエール様っ!!」

 最初に異変に気づいたのは、常に彼女の右後方に控えていたレオンハルトでした。

 彼は愛馬を蹴り飛ばさんばかりの勢いで加速させ、落馬する寸前のマリエールの体をその腕の中に必死に掻き込みました。

「お嬢様ぁぁぁ!!」

 反対側から巨体を揺らして駆けつけたガストンが、レオンハルトと共に彼女を支えます。

 マリエールの顔は、月光よりも白く透き通り、呼吸は絶え絶えでした。

「マリエール様! 目を開けてください! マリエール様!!」

 レオンハルトの叫びが夜空に虚しく響きます。


 城内では王国軍の圧勝が続いていましたが、本陣付近は冷たい水を浴びせられたような沈黙が広がっていました。

「……バカな。これほどの疲労を、なぜこんな……」

 ロランが震える手でマリエールの手首を取りました。

 脈は弱く、体温は急速に奪われていきます。

「全軍に伝えろ! 街の制圧を急げ! 救護班を……いや、最高の医師を今すぐ連れてこい!」

 ガストンが鬼の形相で怒鳴り散らしました。

 レオンハルトは、腕の中で意識を失ったマリエールを強く抱きしめ、自分の無力さに歯噛みしました。

「……私が隣にいながら、貴女にこんな重荷を……。死なせない、絶対に死なせはしない!」

 商業都市ヴァンスは落ちました。

 しかし、それを成し遂げた「アルシエルの乙女」は、自らの命という対価を支払い深い深い闇の中へと沈んでいったのです。


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