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第13話 予言

 その光景を目の当たりにしたクロヴィス王子は、これまでの張り詰めた緊張を解き放つように、腹を抱えて狂おしいほどの大笑いをした。


 その笑い声は、静まり返った「太陽の間」の天井に反響し、権威を失った将軍たちへの痛烈な皮肉となって降り注いだのです。


「ははは! 見たか、将軍たち! これが私の見出した聖女マリエール様の真なる御力だ! お前たちが長年誇りとしてきた自慢の武具が、まるで冬の枯れ枝のように脆く、無残に散ったではないか!」


 王子の高笑いが広間に響き渡る中、将軍たちはただ青ざめた顔で、自らの手元に残った無価値な鉄屑を見つめることしかできなかった。

 彼らの武人としての矜持は、少女が放った一瞬の閃光によって、修復不可能なまでに粉砕されていたのである。


 しかし、マリエールは王子の笑い声に微塵も動じることはありませんでした。

 彼女の瞳は依然として氷のような静謐さを保ち、広間の中心で冷徹に、そして死を宣告するかのような重みを持って告げた。


「笑っている暇はありません、クロヴィス王子。事態は一刻を争います。……今、この瞬間、東の要衝である『オーブ砦』が陥落しました。ハルガルド軍は三日後、峻険な山道を迂回し、この王都カストル・ノワールの裏手を突くつもりです。守備の手薄な北門が、彼らの最初の標的となるでしょう」


「……何だと? 馬鹿な、オーブ砦には我が国屈指の精鋭を配置している。そう簡単に落ちるはずが……」


 第二将軍エティエンヌが、信じられないといった様子で声を震わせた。

 彼は狡知に長けた男であったが、その計算を遥かに超える情報の速さに、裏をかかれた者の焦りを隠せなかったのです。

 彼は即座に、控えさせていた最速の伝令を飛ばした。

 数刻後、広間に駆け込んできた伝令兵の報告は、マリエールの言葉と一字一句違わぬ絶望的な報せであった。


「報告! オーブ砦、陥落! 敵軍は予想外の進軍速度で山道を突破中! このままでは三日を待たずして王都の北側に達します!」


 将軍たちの間に、今度こそ本物の戦慄が走った。

 彼らはもはやマリエールを疑う余地を奪われ、渋々ながらも彼女の予見が真実であることを認めるしかなかった。

 三日後の襲撃という最悪のシナリオに備えるべく、彼らは重い腰を上げ、殺気立った様子で作戦会議へと散っていったのです。


「マリエール様、貴女に相応しい装備を至急準備させましょう。戦場に出るならば、その身を守る堅牢な鎧が必要です」


 クロヴィス王子は自ら王城お抱えの武具職人を呼びつけ、国宝級の鋼を用いた装備を整えるよう命じた。

 しかし、王城の武器庫に並ぶのは、筋骨逞しい騎士たちのための重厚な鎧ばかり。

 彼女のような細身の少女に合う鋼鉄の甲冑など一つとして存在せず、無理に装着させようとしても、それはマリエールが動くことさえままならない、命取りの重しでしかありませんでした。


 結局、彼女のために急造されたのは、防護性よりも機動性を極限まで重視した、上質な革作りの軽鎧であった。

 装飾こそ控えめではあったが、厳選された最高級の皮が使われ、その凛とした佇まいをより一層引き立てていた。

 黒革に銀の縁取りが施されたその装備は、戦士としての厳しさと、聖女としての清廉さを同時に象徴しているようであった。


 マリエールとピエールには、王城の西に位置する、歴史ある離宮の一室が与えられた。

 前世において、彼女が重税で得た富を貪り、贅沢の限りを尽くして暮らしたあの煌びやかな王城。

 かつての彼女であれば、この部屋の調度品の格が低いと不満を漏らしたかもしれません。

 しかし、今の彼女にとって、この豪華な一室もまた、魂を削る戦場の一つに過ぎなかったのです。


 部屋に入ると、ピエールは静かに荷物を解きながら、押し殺していた不安を漏らすようにマリエールに問いかけた。


「お嬢様……本当に、大変なことになってしまいましたね。王都の運命を背負うなど、あまりに重すぎます。お体は大丈夫ですか? あの不思議な剣や盾……お使いになるたびに、お顔の色が少しずつ失われているようで。お疲れになっているのではありませんか……」


 ピエールは、かつてのわがままだった主人が、なぜこれほどまでに冷徹に、そして未来を確信して行動できるのか、その理由を理解できずにいた。

 ただ、あまりにも速く遠くへ行ってしまった「お嬢様」の、その細い肩にかかる重圧を案じていたのです。


 マリエールは、窓から見える王都の夜景を、サファイアブルーの瞳で見つめた。

 遠くに見える家々の灯りは、三日後には戦火に包まれるかもしれない。

 その運命を変えられるのは、自分の中に宿るこの呪わしくも神聖な力だけなのだ。


「大丈夫よ、ピエール。あなたが隣にいてくれるだけで、私は辛うじて私自身でいられるわ。この力が私を飲み込もうとしても、あなたの呼ぶ声が私を繋ぎ止めてくれる」


「……私のような老いぼれにできることなど、お嬢様の背中についた泥を払い、冷めたスープを温め直すことくらいですが。どこまでも、お供いたしますよ」


 ピエールの前世と変わらぬ、そして今世でも不変の忠実な言葉に、マリエールは小さく、消え入りそうなほど微かな微笑みを浮かべた。

(ピエール、あなたは知らないけれど……その変わらぬ優しさと、ただの『マリエール』として私を見てくれる眼差しが、今の私の唯一の救いなのよ。この冷たい力に魂を焼き切られないための、唯一の灯火なの)


 彼女の瞳は、夜闇の向こうに迫る、三日後の血腥い決戦を見据えていた。

 その輝きは、もはや人間のものではなく、氷のように澄み切った神の代行者のそれであった。

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